言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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第13号(2017年1月6日)

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言語文化教育研究学会メールマガジン 第13号
ALCE: Association for Language and Cultural Education

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■ 第13号:もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
--◆◇学会事務局より◇◆----------------------------------------------
新年のご挨拶

--◆◇【9月24日(土)開催】月例会報告報告◇◆-------------------------
「留学生対象自律学習科目における評価ルーブリックの試作」報告
小林ひとみ(神田外語大学)・松本陽子(東京福祉大学)

--◆◇【10月28日(土)開催】月例会報告◇◆----------------------------
「国際交流ラウンジの業務を通して多文化共生をどう実現するか?—横浜市
鶴見区での活動事例から」報告       松井孝浩(横浜市国際交流協会)

--◆◇【11月26日(土)開催】月例会報告◇◆----------------------------
「都市空間はどうように言語教育の場・素材となりうるのか − 言語景観を教
材とした英語教育の実践から」報告        吉田孝子(横浜商科大学)

--◆◇おしらせ◇◆----------------------------------------------------
【参加者募集:2月3日】特別企画:竹田青嗣氏講演会「言語ゲームと人間」
【参加者募集:3月19日】特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」
【全文公開中】『言語文化教育研究』第14巻
【参加者募集】第3回年次大会 言語文化教育のポリティクス(2017年2月,関
  西学院大学)
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◆◇学会事務局より◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
新年のご挨拶
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言語文化教育研究学会は,2014年7月25日に「言語文化教育研究会」から学会
へと名称を変更して設立され、本年で4年目の年を迎えました。

これも会員のみなさまの積極的なご支援とご参加の賜物です。

本年も昨年にも増して積極的な活動を行っていきたいと思います。今年もどう
ぞよろしくお願いいたします。

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◆◇【9月24日(土)開催】月例会特別企画報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「留学生対象自律学習科目における評価ルーブリックの試作」報告
小林ひとみ(神田外語大学)・松本陽子(東京福祉大学)
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第45回月例会で、「留学生対象自律学習科目における評価ルーブリックの試作」
というテーマで話題提供をいたしました。

特に投げかけたかった問いは、「よいと評価される(学生による)リフレクシ
ョン記述は、どのようなものか」「ルーブリックを用いて、他の学生のリフレ
クション記述の評価や、自己評価の活動を重ねることによって、学生は、よい
リフレクション記述がどのようなものかをわかるようになるか」でした。

当日は自律学習(選択科目)の授業実践と、その研究の背景について紹介し、
話題提供者が試作したルーブリックと、学生のリフレクション記述の例を参加
者で共有し、グループに分かれて議論を行いました。

特に、「リフレクション記述にはL1およびL2における学習者の文章力が関係
するのではないか」「ルーブリックがリフレクションに関する気づきのツール
ならば、成績評価のツールとして使用することに疑問が残る」「なぜそのよう
な記述をしたのか、その理由が大切なのではないか」といった意見には今後の
改善の方向性の示唆があり、議論を経なければ得られなかったかもしれない建
設的なアイディアでした。

私たちは、今回の議論を参考にルーブリックを改善し、それを用いた実験(本
学留学生が自己やピア学生のリフレクション記述に対して使用/本学教師が学
生の記述に対して使用する)によって有効性を調査し、さらに改善を行い、来
年度から実際に授業で用いることを目指して活動を続けていきたいと思ってい
ます。

このような機会を設けてくださって、ありがとうございました。
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◆◇月例会報告【10月28日(土)実施】◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「国際交流ラウンジの業務を通して多文化共生をどう実現するか?—横浜市
鶴見区での活動事例から」報告       松井孝浩(横浜市国際交流協会)
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第46回月例会にて、「国際交流ラウンジの業務を通して多文化共生をどう実現
するか?—横浜市鶴見区での活動事例から」というタイトルで話題提供をいた
しました。

そこで、「多文化共生が実現されている状態」として以下のような3つの状態を
提示しました。

(1)自分の文化を隠さなくてもよい状態
(2)日本語学習と母語の継承がともに進んでいる状態
(3)経済的に安定している状態

(1)については、現在は主に外国につながる子どもたちが学校でのいじめを
避けるために、自分のルーツである言語や文化を隠さざるを得ない状況がある
ことを具体例をもとに紹介しました。(2)については、外国につながる子ど
もたちのアイデンティティ形成における母語支援の重要性ついての問題であり、
(3)は、キャリアパスと社会参加、そして社会の担い手育成の問題であるこ
とを指摘しました。

この3つの状態と日本語教育を含めたことばの教育についての関わりをラウン
ジの事業(地域日本語教室、学習支援教室、親子日本語教室)の紹介を通して
お話いたしました。

そして、このような事業を展開するにあたっては、事業自体の意義をどのよう
に説明し、理解してもらうかが非常に重要です。「外国人」「外国につながる
子どもたち」は救済の対象となる社会的弱者なのか?あるいは明日の社会の担
い手に対する投資対象なのか?

社会的弱者であれば、入国を制限すればよいし、明日の社会の担い手であるな
らば投資するが、担い手でないとするならば投資の必要がない。もちろん状況
はこのような簡単な二分法では捉え切ることはできませんが、少なくとも多文
化共生を実現するカギはこの2つのモデルの中にはないと思っています。

その答えは、もちろん社会的弱者ではなく投資の対象でもなく、そして究極的
には「外国人」としてでもなく、「日本人」含む多様な人々を包含する社会を
私たちはどのように創ってゆけるのかという問いの中にあるのではないかと思
います。

そして、このように捉える多文化共生を実現するため(あるいはそのための教
育実践を展開していくために)に、社会の中の限られた資源をどのような人々
に対し、どのように配分していくのか?さらに生々しく言い換えるとするなら
ば、私たちはその資源(つまり、研究資金や事業予算)を獲得するために、他
者に自分の実践や事業の意義をどのように説明していくのか?

これは極めて政治的な問題であるとも言えるのではないでしょうか。

多文化共生の実現に関わる私たちは、ことばの教育に関わるかそうでないかに
関係なく、創造されるべき社会像とそのための実践の意義を明確に他者に説明
していくことを、今後増々求められて行くことになるかと思います。

この生々しく、かつ重いテーマについては3月の年次大会での学びを通してさら
に考えていきたいと思っています。
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◆◇月例会報告【11月26日(土)実施】◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「都市空間はどうように言語教育の場・素材となりうるのか − 言語景観を教
材とした英語教育の実践から」報告       吉田孝子(横浜商科大学)
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第47回月例会にて、「都市空間はどうように言語教育の場・素材となりうるの
か − 言語景観を教材とした英語教育の実践から − 」というタイトルで発表を
行いました。

都会を歩いていると、標識や広告、商店の看板、案内板や注意書き、ボスター
やフリーペーパーを通して、文字やイラスト・写真からなる”言葉”が溢れて
います。そういった言葉からなる言語景観は、情報を伝えるだけに限らず、あ
る社会の歴史や政治、社会構造といった都市のアイデンティティを物語ってい
ます。その点を踏まえると、ふだん何気なく目にする言語景観を言語教育の教
材として扱ったとき、どのような可能性があるのか、参加して下さった方々と
考えていきました。

この発表ではまず、英語を教える私がなぜ日本の言語景観に着目したのか説明
しました。それは、グローバル化やグローバル人材育成論により英語を学ぶこ
とが当然とされる現在だからこそ、英語や英語話者に対する固定観念を問い直
す必要性を日々感じているからです。英語を含めた様々な言語を、学習者たち
のより身近な空間に位置付けることで、言葉と社会の関係性を再考するきっか
けになると考えたからです。

それゆえ発表の前半では、フランスの社会学者アンリ・ルフェーブル(1991)に
よる空間の三つの捉え方を説明しました。その一つ目は、政治家や官僚、都市
計画者によって考えられた空間です。二つ目は、ある特定の場所において、そ
この社会構造を物理的に表象される空間です。そして三つ目が、私たちが日々
身体や五感を通して経験する空間です。この三つの空間の捉え方を言語景観を
教材とした言語教育に応用したのがDavid Malinowski (2015)で、写真におさ
めた様々な言語標識の文字情報を解釈することとどまらず、様々な活動が可能
であることを紹介しました。

また言語標識や広告、ポスターやフリーペーパーの情報を読み取る活動例とし
て、言語景観研究でこれまで培われてきた多言語表記の分類方法を紹介し、学
習者にどのような問いかけが可能なのか、またそこから何が見えてくるのか説
明しました。私がこれまで写真におさめたポスターなどを題材に、参加者の方
々にも実際に分析してもらい、授業でどのような活動が可能なのか体験しても
らいました。

こういった先行研究による知見を踏まえた上で、私が今年度、勤務校の英語の
授業で実践した活動を紹介しました。授業では、学生たちに外出先で見かけた
多言語標識をカメラで撮影し、それぞれの写真を分析し合い、気づいたことや
発見したことを発表してもらいました。また、言語標識のようなモノには含ま
れにくい街の多言語状況に目を向けてもらうために、日本語以外の言語を話す
人々を観察してもらい、モノとして現れる言語景観と比較してもらいました。
この実践自体は、ルフェーブルの理論やMalinowskiによるアプローチを知る前
であったことから、空間を様々な視点から捉え、そこに言語景観を位置付けて
分析することにまで及んでいませんでした。それゆえ、私の実践の未熟さが参
加者の方々にも見て取れる結果となったと思います。一方で、「言葉を空間に
位置付けて考える」というアプローチを実践の中心に据えることで、学生の学
びに広がりが生まれることを実証できたのではないかと思います。

発表後のディスカッションでは、こういった気づきを促すような実践の場合、
学生の学びをどのように評価するのか、という議題があがりました。ルーブリ
ックを作成して、評価の基準を定めるべきなのか、それともこのような実践に
は評価の割合を低くし、サイドプロジェクトにとどめるべきなのか。この点は
今の段階では答えは出ませんが、今後の実践に向けて考えていきたいと思いま
す。

また、私が今後に向けた課題として気づきを促すだけでなく、言語を学ぶ、と
りわけ英語学習につなげられるような活動をより多く取り入れる必要性を挙げ
たところ、英語や日本語、といった固定された言語の枠組みにとらわれるので
はなく、広義の意味で「言葉を学ぶ」というアプローチでもいいのでは、とい
う意見を頂けました。これは近年研究がすすむtranslanguaging とも関連して
おり、既存の言語の枠組みにとらわれない「言葉の教育」へ向けた新たな取り
組みへとつながる可能性にもなります。来年度は、新規に「ことばを通して横
浜市・鶴見区の多文化共生を考える」という授業を担当することになっていま
す。今回の発表を通して頂いたご意見を参考に、学生たちに街で使用されてい
る様々な言語実践を観察してもらい、言語の境界線について、そしてそこから
浮かび上がってくる街や住民の間に引かれた見えない境界線について考えてい
ってもらえたらと思っています。

今回は1時間45分という十分な時間を使って発表をすることができたおかげ
で、参加者の方々ともゆっくりと意見を交わすことができ、大変貴重な経験と
なりました。この経験を、今後の実践そして研究に生かしていきたいと思いま
す。どうもありがとうございました。
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◆◇おしらせ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
━【参加者募集:2月3日】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆特別企画:竹田青嗣氏講演会「言語ゲームと人間」
 内容詳細:https://alce.jp/

日時:2017年2月3日(金)18:30〜20:00
   18:30〜19:30:講演
   19:30〜20:00:質疑応答
会場:早稲田大学早稲田キャンパス22号館502教室[アクセス]
参加費:無料
事前申込:不要


━【参加者募集:3月19日】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」
 内容詳細:https://alce.jp/

日時:2017年3月19日(日)14:00〜17:00
会場:高等教育出版社总社4层报告厅(北京市西城区德胜门外大街4号A座)
共催:言語文化教育研究学会,北京日本学研究センター
話題提供:細川英雄(早稲田大学),佐藤慎司(プリンストン大学),
     塩谷奈緒子(東京電機大学)


━【全文公開中】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆『言語文化教育研究』第14巻 特集「多文化共生と向きあう」

2016年12月30日公刊:https://alce.jp/journal/vol14.html


━【参加者募集】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3回年次大会 言語文化教育のポリティクス
  大会詳細: https://alce.jp/annual/index.html

日程  :2017年2月25日(土),2月26日(日)
会場  :関西学院大学 上ヶ原キャンパスG号館
参加費 :会員1,000円,非会員2,000円
参加方法:参加自由,事前申し込み不要

プログラムより

大会テーマ趣旨:言語文化教育のポリティクス
25日(10:00〜12:30)大会シンポジウム:
  言語文化教育のポリティクス
26日(10:00〜12:30)委員企画フォーラム:
  経験から編み直す言語文化教育ポリティクス—─M-GTAを例として

協賛:くろしお出版,ココ出版,スリーエーネットワーク,大修館書店,
   凡人社,ラーンズ(五十音順)
後援:日本言語政策学会
問い合わせ:annual@alce.jp(年次大会事務局)


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誌 名: 言語文化教育研究学会メールマガジン 第13号
発行日: 2017年1月6日
発行所: 言語文化教育研究学会 事務局
     〒187−8505 東京都小平市小川町1−736
     武蔵野美術大学鷹の台キャンパス三代純平研究室内
編集,発行責任者: 言語文化教育研究学会広報・連携委員会 松井孝浩
お問い合わせ・情報掲載依頼: ezine@alce.jp
メルマガバックナンバー: https://alce.jp/mailmag.html
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