言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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第15号(2017年5月31日)

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言語文化教育研究学会メールマガジン 第15号
ALCE: Association for Language and Cultural Education

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■ 第15号:もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
--◆◇学会事務局より◇◆----------------------------------------------

3回目の春に迎えるにあたってのご挨拶

--◆◇【2月25-26日(土-日)実施】第3回年次大会 報告◇◆--------------

第3回年次大会「言語文化教育のポリティクス」報告

牛窪隆太(年次大会実行委員会副委員長)

--◆◇【3月25日(金)開催】月例会特別企画 報告◇◆-------------------

月例会特別企画「言語教育を生態学的に考える その2
—『にほんごのたびver.2.0』より」報告

宇都宮裕章(静岡大学)
齋藤智美(早稲田大学)
瀬尾悠希子(大阪大学大学院)

--◆◇おしらせ◇◆----------------------------------------------------

【参加者募集:6月23日】
 第52回月例会
 「汎ヨーロッパレベルで,いま何が言語教育研究の課題となっているのか
 ——欧州現代語センター(ECML/CELV)滞在報告」

【全文公開中】『言語文化教育研究』第14巻

【参加者募集:12月9-10日】
 第4回研究集会 クリティカルとは何か

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◆◇学会事務局より◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

3回目の春に迎えるにあたってのご挨拶

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2017年度になりました。2014年7月に発足したALCEは、この4月で3回目の春を
迎えました。今年度は、2017年12月に熊本で研究集会が、2018年3月に京都で
年次大会が予定されています。また、学会発足以前から行われている月例会は
この4月で開催50回を数えました。月例会では、これまで以上に話題提供者と
月例会委員間で事前にやりとりすることをとおし、提供される話題や議論の場
のデザインを協働的に構築することを重視します。

ALCEは、今年度も、日本全国、世界各国、いろんなところに出かけて行き、こ
とばと文化と教育をめぐる熱い議論を巻き起こしていきます。積極的にご参加
ください。

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◆◇【2月25-26日(土-日)実施】第3回年次大会 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

会場校より一言—年次大会と居場所と私—

牛窪隆太(年次大会実行委員会副委員長)

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第3回年次大会が、2月25日、26日に関西学院大学・上ヶ原キャンパス(兵庫県
西宮市)で開催され( http://alce.jp/annual/2016/ )、盛会のうちに終え
ることができた。ホームであった関東を離れ、会場を関西に引っ越しての開催
であったため、果たして、発表エントリーが集まるのか、当日会場に人は来る
のかと、最後まで心配の種はつきなかった。最終的には、たくさんの方にエン
トリーしていただき、また当日も175名の方々にご参加いただいた。全世界か
ら関西まで足を運んでくださった参加者の皆様に、改めてお礼申し上げたい。

個人的な話で恐縮だが、私自身、関東から関西に引っ越して2年になる。その前
は海外にいたため、日本国内の移動は、なんてことはなかった。しかし、それ
でも、所属機関が変わり、新しい環境に身を置いて仕事をしていると、自分に
とって当たり前だったことが当たり前でなくなる状況にたびたび遭遇し、また
環境そのものに強い違和感を覚えることもあった。そんなとき、議論を重ね、
自分の考えを伝え、相手を理解しようとすることで、また、そのような議論が
できる場所をつくることで、自分の居場所を確保してきたように思う。

今回の大会テーマであった「言語文化教育のポリティクス」について大会委員
長の牲川さんと話し合いながら、私の頭の中にあったことは、しかしながら、
現場によっては、そのような議論ができない環境もあるのではないかという問
題意識であり、言語文化教育実践者にとって自分の居場所を確保するための対
話とは、どのように可能なのかという問いであった。

研究仲間もおらず、大したコネも持たない状況で準備は始まった。しかし、気
がつけば、年次大会のための準備は、関西で知り合った様々な人と対話し、言
語文化教育の理念と方向性を議論し、ともに研究することを通しての私自身の
居場所づくりに重なっていった。年次大会の準備をネタにして、私自身が、新
たな環境で新しい人たちと仕事を始めるための準備をしている、そんな感覚を
もつようになった。

こうして実施された大会後のアンケートには、初めて年次大会に参加したとい
う多くの方から、自由な雰囲気がよかった、居心地のよい大会だったという声
をたくさんいただいた。もちろん運営の方法や内容について、今後の課題があ
ることも承知している。しかし、「引っ越し」のうえで開催された年次大会が、
居心地がいいものとして異なる場所で受け入れられたことは、私にとっては大
きな喜びであった。またそれはこの学会にとっても、大きな一歩となったはず
である。

次回、第4回年次大会は、2018年3月10日(土)・11日(日)に、京都にある立
命館大学・衣笠キャンパスで開催されることが決まった。新たなメンバーを迎
え、多くの人にとって居場所となる大会を目指して、次のステップへと進みた
い。

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◆◇【3月25日(金)開催】月例会特別企画 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

月例会特別企画「言語教育を生態学的に考える その2
—『にほんごのたびver.2.0』より」報告

宇都宮裕章(静岡大学)
齋藤智美(早稲田大学)
瀬尾悠希子(大阪大学大学院)

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3/25に月例会特別企画「言語教育を生態学的に考える その2—『にほんごの
たびver.2.0』より」が行われました( http://alce.jp/monthly/2016/ )。
本特別企画では、まず、齋藤さんと宇都宮さんによる話題提供が行われました。
話題提供は、齋藤さんからの教育実践「にほんごのたびver.2.0」の紹介に対し、
宇都宮さんが言語生態学的な観点から、適宜、解説(ツッコミ?)を加えると
いう形態で行われました。
(齋藤さん、宇都宮さんからの話題提供に関しては、学会WEBサイトに掲載さ
れているスライド&ノートをご参照ください。
http://alce.jp/monthly/2016/sp16c.pdf )

その後、二人から提供された話題を題材に、参加者全員で主に次のようなやり
とりを行いました。

・教師が「環境と個体を切り離して考えない」という生態学的観点を持つこと
 で、教育実践のデザインが変わる。
 →教師のホリスティックな教育/学習観への変容を促す?
・生態学的観点にもとづいてデザインされた教育実践は、学習者が上来の導管
 メタファーにもとづく教育実践における学びとは異なる学び(学び方)を体
 験する場となる。
 →学習者のホリスティックな教育/学習観の変容を促す?
・教育実践は、何らかの制度の中に置かれていることが多い。生態学的観点に
 もとづいてデザインされた教育実践を実現するためには、当該の教育実践を
 制度の中に位置づけるための知恵が必要になる。
・教師が生態学的観点にもとづいて教育実践をデザインするという行為自体が
 環境と個体を切り離すかもしれないというパラドックスをはらんでいる?

以下、宇都宮さん、齋藤さん、(参加者の一人である)瀬尾悠希子さんから寄
せられた感想をご紹介します。

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学びの場の拡張

                        宇都宮裕章(静岡大学)
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かつてJ.J.ギブソンは言いました。「もしも陸地の表面がほぼ水平で、平坦で、
十分な広がりをもっていて、その材質が堅いならば、その表面は支えることを
アフォードする」と。こうした生態学の観点は教育的営為にも適用可能です。
もしも教室が安全で、十分な資源に満ちていて、その場に居たいという者がい
るならば、その教室は学ぶことをアフォードする、のです。この意味での教室
は、実質的な建物の内・外、教師や学習者と呼称される人物のいる・いない、
手に取れる教材や教科書のある・なしを問いません。つまり、ありとあらゆる
ところが学びのフィールドになります。もっと端的に言えば、普段の日常的な
あえて学習と意識することのない場面でさえ、そこでの構成員は学びという行
動をすることができます。今回紹介した「にほんごのたび」の活動は、制度に
ぎちぎちに縛られている「教室」に始まり、少しずつそのあり様が変わってい
った過程として観察できました。そして、たびに参加していた学生たちも、学
校の教育課程では味わえなかった体験を蓄積する中で、(結果から眺めると自
分たちでも)信じられない程のことばによる交流が可能になっていったのです。

ただ、このように学びを語ることは様々な誤解を生みます。私はその背景こそ
制度上の壁(思い込み)だと感じていますが、それは別としても、「どこでも
OKなら学校に行かなくてもいいんじゃないか」あるいは「外に学生を連れてい
けない場合はそんな活動無理じゃないか」という批判はよく耳にします。つま
り、学習が特定の空間内で特定の内容と方法を整えてはじめて成立するものだ
として、「そうでない場」を等閑視した疑義です。残念ながら、生態学をもっ
てしてもこの現実的な等閑視を解消することは叶いません。しかし、生態学的
観点が示唆しているのは、旧来「応用」だとか「発展」だとか「課外授業」な
どと呼ばれてきた活動への道筋が、学習者の場への没入に直結し、積極的な関
わりを促進し、(特にことばの側面においての)十分な運用ができたという達
成感に繋がるものだという点です。基礎と応用に分断するのではなくて、学習
を総体的に捉えることの有用性を示しているのです。この点を了解している者
がアレンジャーになりますと、普段の学習環境も随分違ったものに変わります。

幸いなことに、今回の議論におきましても、それぞれのお立場から私たちの伝
えたかったことを建設的に考えてくださる方々にお集まりいただきまして、た
いへん刺激的な意見交換ができました。この場をお借りして、改めて御礼申し
上げます。ですので、また別の機会があれば、今度はもっとアウェイ感のある、
矢面に立たされるような場で発表してみるのも一興ではないかと考えています。

ところで、もう少し議論を深めるべきだった点に「ことばのアフォーダンス」
がありました。今回の主題としても提示していたのですが、なかなか明示的に
取り扱うことが(実は相変わらず、なのですが)できずにいて、またしても曖
昧にしてしまったようです。ここはお詫びしなくてはなりません。ですが、こ
の場で今後の課題的な述べ方をしますと、前述した「〜をアフォードする」を
そっくりそのまま「〜を意味する」に換言できるところに、糸口があるような
気がします。少なくとも意味を(特定ではなく)表現するツールの一つがこと
ばなのだとすれば、ことばを取り扱うこと自体が意味や価値を生み出す学びの
場の形成に貢献することは間違いないでしょう。

もし、私たちが思っている以上に今の教育現場が停滞しているようでしたら、
そこからの逸脱が実は本流であることをちょこっとだけ信じて、「たび」のよ
うな試みをしてみるのも面白いかもしれません。

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たび、ことばのたび

                        齋藤智美(早稲田大学)
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言語教育という領域に身を置きつつ、ことばを学ぶってどういうことだろう、
ことばの意味はどう学ばれるものなんだろう、ということが、ずっと通奏低音
としてあります。

2013年の「にほんごのたび ver.1.0」では、学校システムの評価では見ること
のできない、しかし事実としてあることば、真にやりとりされることばがある
ことを見ました。

2016年の「にほんごのたび  ver.2.0」では、やはり、制度システムの枠組みで
は見ることのできないもの、アフォーダンスの視点から、ことばの意味の間主
観性、環境の生成が見られました。「にほんごのたび ver.2.0」は、いわゆる
導入も練習も、モデリングもコーチングもスキャフォールディングも排除した
活動です。そうすることによって、学校制度、教育制度が切り外し、教室では
不透明なフィルターをかけてきたものが見られました。個別固有の環境を持つ
個人が、それぞれの関係性をつなぐ過程は、学習環境が織り上がっていくかの
ようでした。日本語の学習環境は個別固有のものであることは、かつての国立
国語研究所の大規模調査に代表される研究によって明らかになっていますが、
それを踏まえつつ、生態学的に環境を捉えると何が見えるのか、その切り口を
見つけたように思いました。

生態学的にことばを観察することは、関係性を紡ぎ繙き織込んでいく様を観察
することです。それはそう容易く記述できるものではありませんが必要なこと
です。言語教育現場がプロジェクトワークのような型枠で活動せざるをえない
とき、生態学的な背景を踏まえていることによって、ことば=ヒトの本質を歪
めずにいられるだろうと思うからです。本質が何なのかは、脳科学や哲学など
を密に援用する必要がありますので、まだ自分ではコレだと言えるものがあり
ません。ですから、今後もアフォーダンスと意味づけを軸に、観察を重ねてい
きたいと考えています。そうすることによって、言語教育現場の、何か襟元が
チクチクするような違和感が少しでも拭えるのでは、と期待するからです。

今回、このような発表と議論の機会をいただいたこと、心から感謝申し上げま
す。引き続き、「たび」はver.アップしていきます。またのご報告が叶います
ように。

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制度化されない学びに教師はどう関われるのか

                     瀬尾悠希子(大阪大学大学院)
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今回の月例会で紹介された「にほんごのたびver.2.0」という活動は、従来の
制度化された学びではない学びを創発する試みだそうだ。この活動では行き先
や「たび」でやること、そもそも本当に「たび」に行くかどうかなど全ての決
定が学習者に委ねられ、教師は何かを意図して教えることはしない。

このような環境において生じる学びは、私たちが普段おこなっている制度化さ
れた言語教育では「学び」として評価されないばかりか、認識さえされないこ
とが多いだろう。だからこそ、そのことに気づいた教師たちはこうした学びを
自分たちの教育実践にどうにか取り入れようとする。そのような実践のひとつ
である「にほんごのたびver.2.0」はその目的をかなり達成しているように感じ、
普段わたしたちが学びというものをいかに一面的にしか捉えていないかを実感
させられた。

しかし、一方で教師が制度化されない学びの実現を目指して丁寧に作りこめば
作りこむほど学びがかえって制度化され、教師にコントロールされたり教師に
コントロールしてもらうことが期待されてしまう危険性もあるのではないかと
も思う。また、ディスカッションでも話が出ていたように、実はこのような学
びは学習者たちの生活や教室の中で普段から起きているものだろう。だとすれ
ば、教師がわざわざ学びを起こそうと介入していく意味はどこにあるのだろう
か。もしかすると、教師は制度化されていない学びを自らの手で起こそうとす
るのではなく、普段から学習者が経験している様々な学びを「学び」として捉
える努力をしたり学習者が自らの学びに気づけるようにすることが必要なので
はないかと思った。このような点から自分の教育実践を振りかえりつつ、新学
期を過ごしていきたい。

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◆◇おしらせ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

━【参加者募集:6月23日】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第52回月例会
「汎ヨーロッパレベルで,いま何が言語教育研究の課題となっているのか
——欧州現代語センター(ECML/CELV)滞在報告」

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●日時:2017年6月23日(金)18:00〜19:45
●会場:早稲田大学早稲田キャンパス22号館512教室
●話題提供者:山本冴里さん(山口大学)
●参加費:無料
●予約:不要(当日,直接会場にお越しください。)
●お問い合わせ: monthly@alce.jp(月例会委員会事務局)
●詳細:http://alce.jp/monthly/#n52

━【全文公開中】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆『言語文化教育研究』第14巻 特集「多文化共生と向きあう」

2016年12月30日公刊:http://alce.jp/journal/vol14.html

━【参加者募集】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第4回研究集会 クリティカルとは何か

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「学習者の批判的能力を育てる活動」
「クリティカルシンキングを促す」
「実践を批判的(クリティカル)にふりかえる」

このように「批判的」や「クリティカル」ということばをよく見聞きしますが、
そもそも批判的やクリティカルとはどういうことなのでしょうか。今回の研究集
会は合宿形式で行い、1泊2日にわたってこのテーマについてみんなで一緒に考え
たいと思います。研究集会には哲学・教育学者の苫野一徳氏(熊本大学教育学部)
をお招きし、本質的思考という観点から「クリティカル」について考えます。参
加者には事前に苫野氏の『はじめての哲学的思考』(2017年・ちくま書房)を読
んでいただき、研究集会で苫野氏を交えてみんなで議論します。

●日程:2017年12月9日(土)・10日(日)
●会場:ホテル熊本テルサ(熊本県熊本市)
●発表応募締切:2016年5月31日
●詳細:http://alce.jp/meeting/p4.html

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誌 名: 言語文化教育研究学会メールマガジン 第15号
発行日: 2017年5月31日
発行所: 言語文化教育研究学会 事務局
     〒187−8505 東京都小平市小川町1−736
     武蔵野美術大学鷹の台キャンパス三代純平研究室内
編集,発行責任者: 言語文化教育研究学会広報・連携委員会 古屋憲章
お問い合わせ・情報掲載依頼: ezine@alce.jp
メルマガバックナンバー: http://alce.jp/mailmag.html
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