言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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第16号(2017年8月20日)

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言語文化教育研究学会メールマガジン 第16号
ALCE: Association for Language and Cultural Education

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■ 第16号:もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

--◆◇学会事務局より◇◆----------------------------------------------

暑中お見舞い申し上げます

--◆◇【3月19日(日)実施】特別企画 IN 北京 報告◇◆-----------------

特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」報告

今井なをみ(企画者、早稲田大学)
古屋憲章(企画者、武蔵野美術大学)

--◆◇【4月22日(土)開催】第50回月例会 報告◇◆---------------------

自分自身の興味・関心に向き合うこと

細川英雄(言語文化教育研究所・八ヶ岳アカデメイア)

--◆◇【5月22日(月)開催】月例会特別企画 報告◇◆-------------------

葛藤との向き合い方、授業の在り方そして人生の生き方

黄均鈞(華中科技大学)

--◆◇【5月27日(土)開催】第51回月例会 報告◇◆---------------------

何のために「多読」実践を行うのか

髙井かおり(明星大学)

--◆◇【6月23日(金)開催】第52回月例会 報告◇◆---------------------

会いたい人が、できました

山本冴里(山口大学)

--◆◇【7月21日(金)開催】月例会 特別企画 報告◇◆-----------------

月例会特別企画「社会につながる自己表現とは何か」を終えて

江﨑正(カセサート大学)

--◆◇【7月22日(土)開催】第53回月例会 報告◇◆---------------------

「台湾・香港・韓国人日本語学習者数は800万人規模」からの、
「やさしい日本語ツーリズム」報告

吉開章(株式会社電通)

--◆◇おしらせ◇◆----------------------------------------------------

【全文公開中】『言語文化教育研究』第14巻

【会員の皆様へ】理事選挙を行います—自薦他薦受付中

【発表者募集:2017年11月8日締切】
第4回年次大会
ナラティブの可能性(2018年3月、立命館大学)

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◆◇学会事務局より◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

暑中お見舞い申し上げます

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暑い日が続いております。
懐かしのキャンディーズではありませんが、暑中お見舞い申し上げます。

ALCEでは、2017年度前半も様々なイベントを開催しました。
今号に掲載されている各イベントの報告をお読みいただければ、
暑い夏に勝るとも劣らない現場の熱気が少しは伝わるかと思います。

2017年度後半も月例会、研究集会、年次大会と、
引き続き、様々なイベントが予定されています。
メルマガを読んで、何か少しでも心惹かれるところがあれば、
今後開催されるイベントにぜひぜひご参加ください。

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◆◇【3月19日(日)実施】特別企画 IN 北京 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」報告

今井なをみ(企画者、早稲田大学)
古屋憲章(企画者、武蔵野美術大学)

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特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」は、実践研究をめぐる諸問題の
共有と、実践研究の意味性や理解を深め合うことを求め、開催に至りました。
本企画は2017年3月18-19日に行われた第2回「日本語教育学の理論と実践をつ
なぐ」国際シンポジウム(第二届“理论与实践结合的日语教育学”国际研讨会)
に引き続き、同会場にて開催されました。また、本企画と同シンポジウムの趣
旨に重複する点があったため、後述するような展開で進めることとなりました。
なお、参加者は総勢31名でした。

まず、4-5人の小グループに分かれ、シンポジウム内で行われた基調講演やパネ
ルセッション中の本企画に関連する部分に対する見解を出発点に、各自の考え
や見解を話し合いました(基調講演等の内容に関しては、末尾の<参考>をご
参照ください)。次に、グループで話し合われた内容を参加者全員で共有しま
した。概ね次のような疑問・意見が共有されました。

【日本語教育実践に関する疑問・意見】
・言語知識を得たいという学生のニーズにどのように対応するか。
・どのように学生に批判的思考を育成するか。
・授業内における対話をどのようにデザインするか。
・言語教育が人間教育の一環であると考えた場合、従来の日本語教育実践との
 間にどのような相違点があるか。
【日本語教師に関する疑問・意見】
・言語(日本語)に関しては知識や関心を有していても、教育に関しては知識も、
 関心もない同僚教師とどのように教育実践に関する対話を進めればいいか。
・通常の業務に加えて、実践研究を行う場合、教師の負担が大きくなってしまう。
【実践研究に関する疑問・意見】
・実践を研究する意味、もっとはっきり理解したくなった。
・実践研究において、データをどのように収集するか。また、実践終了後にデー
 タが必要になった場合はどうするか。
・実践と研究は一体?むしろ教育と実践は一体ではないのでしょうか。
・教育と研究は一体だというのは理解できるが、それを研究、および研究業績に
 どのようにつなげていけるか。
・実践研究論文を投稿する場がない。そもそも実践研究が研究として認められて
 いない場合、実践研究論文を投稿すること自体が大学で認められない可能性が
 ある。

上述した疑問・意見は、参加者が基調講演等の内容を各自の現場や実践に引きつ
けつつ、行った発言です。それらの発言に対し、話題提供者(細川英雄さん、佐
藤慎司さん、塩谷奈緒子さん)、企画者(今井なをみ、武一美、古屋憲章)、お
よび共催側である曹大峰先生、朱桂栄先生が自身の経験を語りつつ、意見を述べ
ました。そして、それらの意見に対し、参加者が意見を述べるといったインタラ
クションの中で、それぞれの実践やこれまでの体験が語られました。短時間なが
らも、リラックスした雰囲気の中、実践研究の実施に関し、忌憚ない意見が交わ
されました。そのような意見交換をとおし、参加者は、実践・実践研究と各自の
現場・現状を協調・協働的に振り返り、捉え返していたようです。また、その結
果として、実践研究をめぐる参加者各自の考えや気持ちが共有されたように思い
ます。

本企画終了後、参加者から次のような感想が寄せられました。

【終了後の感想】
・日本語を教えている中日両方の教師を集めて、普段できない話や経験を交流す
 る場を作ってくださったことに感謝する。
・佐藤先生や細川先生をはじめ、先生方が今までたどってきた道と体験を共有し
 ていただけたこともいい参考になった。
・先生方の実践に基づいた体験と観点をお伺いできてたいへんうれしかったです。
 学習者を見ながら、コースを進めるようにという考え、実践と振り返りがまだ
 足りなくて教科書とばかり相談しているわたしにとってたいへん参考になった
 アドバイスです。
・実践研究は、簡単じゃないけれど、やる価値がある。そう思ってきたけれど、
 なかなか周りの人に理解してもらえませんでした。この機会があって、先生方
 から実践研究は簡単なことではないし、うまくいかなかったり、苦労も多いけ
 れども、続けていくことから見えてきたことがあるという話を聴きました。学
 生と一緒に成長を確認できることの喜びも大きいと思えるようになりました。
 がんばりたい。たくさん励ましをもらいました。
・言語と文化をどのような姿勢で教えたら、学習者がよく成長できるかについて
 は、まだまだ模索していく道が長いが、このような研修会で先生方の経験を伺
 えたことで、この道で行こうという安心感が得られるとともに、もっとがんば
 ろうという意欲も出てきた。
・企画者・話題提供者という立場だったが、これまで中国からの留学生の様子か
 ら、知識を教えるための授業のみが実施されているなど、誤認していることに
 気づいた。今回、実践研究をめぐって、異なる現場の先生方と話しができたこ
 とは、多様な意見や見解を知る機会になった。
・教科書と現場のずれが起きている。そのずれを実践研究のテーマとした場合、
 周囲には認識されない。自分の教え方の問題だけではなく、多様な観点から振
 り返ることを知った。

中国の教育政策は、建国以来、重要政策として急速に施行・実施されてきたそう
です。特に、1990年代以後は、21世紀に向け、従来の知識の習得を重んじた教育
から、学習者が生涯学んでいくことのできる学びのプロセスを重視した学習者主
体へと大きな転換が図られ、その促進がなされてきたようです。その一方で、多
くの教師、および学習者が従来の知識伝達型の授業に慣れ親しんでいるという状
況の下、教育実践を変革するための実践研究の重要性はなかなか共有されないと
いうのが現状のようです。本企画では、話題提供者をはじめ、参加者が日本語教
育に携わる中で抱えてきた葛藤や苦悩を共有しました。同時に、現状の厳しさを
憂うるばかりではなく、新しい実践を実施する意義や実践研究を進めていく意味
性等を共有する、情熱と活気のあふれる場ともなりました。異なる現場を抱えて
いても、実践研究をとおしてお互いの現場の問題を共有できることを実感する場
を持てたことに心から感謝します。

<参考>
・言語文化教育研究学会 特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」
 http://alce.jp/spec16.html#news1604
・第2回「日本語教育学の理論と実践をつなぐ」国際シンポジウム
 (第二届“理论与实践结合的日语教育学”国际研讨会)実施報告
 http://www.jpfbj.cn/sys/?p=2499
【中継録画】
 ①基調講演(林洪先生)
  http://weibo.com/2384546731/EAkp98YqI
 ②基調講演(細川英雄先生)
  http://weibo.com/2384546731/EAkYyoLx7
 ③基調講演(佐藤慎司先生)
  http://weibo.com/2384546731/EAtq74qaQ
 ④パネルセッション報告(細川先生、曹先生)
  http://weibo.com/2384546731/EAtXnk7rJ
 ※このほかに、朱桂栄先生からもご報告がありましたが、録画が公開されて
  いません。

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◆◇【4月22日(土)開催】第50回月例会 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

自分自身の興味・関心に向き合うこと

細川英雄(言語文化教育研究所・八ヶ岳アカデメイア)
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先週末のALCE月例会第50回記念特別企画では、実践研究のテーマについて
話をさせていただいた。このテーマという表現というかタームそのものがどう
もわかりにくいようで、何とか理解していただくにはどうしたらいいか思案中
である。

たとえば、10人の参加者がいたとして、それぞれが持つ興味・関心を語るこ
とにしてみよう。ある人は音楽、ある人は車、あるいはPCゲーム、というよ
うに、一人一人の興味・関心は異なっている。まずは、ゆっくりとそれぞれの
興味・関心のありかを語ってもらうこと、ここからテーマの設定が始まる。

そうした興味・関心には必ず何らかの理由があるはずだから、その理由につい
て語ってもらう。つまり、なぜそのコト・モノに興味・関心を持つのかという
ことをじっくり話してもらうのである。そうすると、次第に、その人その人の
興味・関心の根っこが見えてくる。根っこが見えてきたらしめたもので、みん
なでその根っこを比べてみる。そうすると、結構共通する課題が見えてくるも
のだ。

たとえば、幸せになりたい、とか、希望を持ちたいとか、いろいろな願望が見
えてくる。さらに、その願望の向こうには、生きることの意味を問う姿勢がほ
の見えてくる。じゃあ、生きることって何なんだというような問いを出してみ
ると、参加者全員がそのことを自分のこととして考えるようになる。きっかけ
は、音楽やゲームであっても、その興味・関心の根っこには、その人なりのか
なり大きなテーマが潜んでいるのである。この一連の活動プロセスがテーマの
発見である。

これは教室活動にとどまらない。家族をはじめ、地域の活動、あるいは学校や
会社のようなところ、どこでも同じことだ。こんなふうにバラバラに語りはじ
めたら収拾がつかなくなるというのが大方の意見だが、そんなことはない。

むずかしいとすれば、それは、この興味・関心について語るということ自体が、
集団の中ではほとんど無視されてきたという現実があるからだろう。好きなこ
とを追及してもそれは将来につながらない、社会に出て人としてやっていくに
は、好きなことをするのではなく、つらいことを我慢してみんなに合わせてい
くことが社会人としての生き方だというような発想の下で集団が形成されてき
ているからだ。

このような発想の先頭に立ってきたのは、間違いなく教師だから、教師にとっ
ては、それぞれの興味・関心について語るという行為自体が違和なのだろう。
だからこそ、テーマについての話をすると、興味・関心がない子どもや学生に
はどう対応したらいいのかという質問がかならず教師たちから出るのだと思う。
そのためには、まず、教師その人が自分自身の興味・関心について向き合うこ
と、そしてその根っこを自覚すること、ここにテーマ発見活動の原点があると
いえるだろう。

※本報告は、メールマガジン『ルビュ言語文化教育』623号より転載しました。

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◆◇【5月22日(月)開催】月例会特別企画 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

葛藤との向き合い方、授業の在り方そして人生の生き方

黄均鈞(華中科技大学)
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今回の月例会では、筆者は去年の秋学期、中国の大学の日本語専攻の授業で行
われた活動型授業の実践を紹介しました。特に、担当教員の教育観と受講生の
学習観との違いに焦点を当て、両者の葛藤とその後の変容を扱いました。

当日は、まず会場の皆様に普段の教育現場で、自分が遭遇した葛藤を語っても
らいました。その後、発表者の発表に入り、中国の大学の日本語教育という文
脈の下で、葛藤についての議論を深めました。その中で、一番印象に残った話
は、教師の教育観と学習者の学習観との違いによる葛藤をいかにして乗り越え
ていくかということだけでなく、むしろ今後、実践者の実践が広がるにつれて、
教育機関という教師コミュニティの中で、例えば、活動型授業とそうじゃない
授業とのせめぎ合いの中で、自分の授業をどのように(シラバスの中に)位置
づけていくかということです。

日本語教師の教育観は、ただ、何をどのように教えるかという技術レベルの意
思決定だけでなく、ことば、教育、そして人間に対するビリーフスも深く関わ
っていると言えます。このように考えると、他の教師とのせめぎ合いの中で自
分の実践を位置付けていくことは、自分がどういう授業を行っていきたいか、
なぜこうした授業をしたいかという授業の在り方を考えることであり、同時に
自分がどういう教師として生きていくかという人生の生き方を考えることでも
あります。

月例会の場を通して、教師に何らかの葛藤が生じた際、単にある優れた教授方
法やモデル授業に解消のヒントを求めていくのではなく、むしろ、様々な葛藤
に関し、それぞれの教育現場の社会文化的な背景に基づいて語り合い、状況を
共有していくことが大事だと思われます。

これから転換期を迎える中国の大学における日本語教育の現場では、今後、恐
らくたくさんの教師は様々な「葛藤」に遭遇してしまうと予想できます。その
際に、仮にその葛藤がすぐには解消されなかったとしても、このような「葛藤
を共有する」場を確保することから始めるのがよいかと思いました。

※黄さんからの話題提供の内容に関しては、
 学会Webサイトに掲載されているスライドをご参照ください。
 http://alce.jp/monthly/2017/sp1a.pdf

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◆◇【5月27日(土)開催】第51回月例会 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

何のために「多読」実践を行うのか

髙井かおり(明星大学)
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5月27日(土)開催の月例会では、「多読」には特に興味を持っていなかった方
から、興味を持っている方、これから「多読」実践を始める予定の方、すでに
「多読」実践を行っている方など、「多読」実践に関して様々な立場の方々に
お集まりいただき、ざっくばらんな、しかし充実したディスカッションを行う
ことができました。

まず、発題者である私から、「多読」の簡単な紹介と私自身の「多読」実践に
ついて紹介し、現在、私が「多読」実践に関して疑問に思っていることをお話
しし共有しました。その後、グループに分かれて、ディスカッションポイント
2点(1.「多読」実践を言語教育として行う場合の長所、および短所は何か、
2.もし、あなたが「多読」実践を行うとしたら、どのような目的でどのように
行うか)を踏まえ、「多読」について話し合いました。

「多読」とは「ジムで行う筋トレ」とそうじゃない「多読」があるのではない
かというお話がありました。「ジムで行う筋トレ」の場合、「多読」はより効
率的に筋肉をつける、つまり、より効率的に言語を習得するための手法であり、
教師はジムのトレーナーのようなものだということでした。やる気があれば自
分一人でもできるのにわざわざお金を払ってジムに行って行うという意味でも
なるほど「多読」もそうだなぁといたく納得しました。そして、私が考えてい
たような「本を読むことを楽しむ」は筋トレじゃない「多読」であり、例えば、
自分の好きな1冊を見つけたり、クラスメートとシェアしたりといった活動が挙
げられました。

「多読」実践は、評価の仕方や教師の役割など悩ましいことがありますが、
よく考えると、それらは「多読」に限ったことではありません。その他にも
「多読」のやり方やルールに対する考え方次第で、本の選び方や読ませ方、
そして実践内容が変わって来るので、すでに実践されているみなさんは、
それぞれ悩み考えながら実践しているようでした。

NPO多言語多読の提唱する「多読」は「多読」の1つの形であり、いわば基本形
(教科書で言えば指導書)のようなものです。だから、私たちはその形(やり
方)にこだわる必要はなく、それぞれが、何のために何がしたいのか、
その目的を達成するために必要であれば必要な形で「多読」を取り入れていく
べきだという当たり前であり、大切なことを再認識することができました。

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◆◇【6月23日(金)開催】第52回月例会 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

会いたい人が、できました

山本冴里(山口大学)
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いまの住まいである山口に越して6年目になります。ここは釜山のほうが、距離
としては東京より近いのです。朝自宅を出れば、昼前には釜山に着いていると
いうほどで、県内でも北のほうに行けばコリア語でのラジオも入ります。

それでも私がむかうのは圧倒的に東京ばかりで、まわりも大概そうで、でも、
違った地域性や動きかたも、自分のなかに取り入れたい——と、これは、山口
で働きながら、さらには遠く離れたオーストリアのグラーツでも感じました。

この春に2週間ほど、グラーツにある欧州現代語センター(European Centre
for Modern Languages, 以下ECML)に滞在しました。滞在中の調査結果詳細に
ついては、別稿にゆずりますが、ひとつ感服してしまったことを。それは、国
・地域レベルでの連携をうながす制度でした。ECMLは、基本的にプロジェクト
・ベースで動いていて、各プロジェクトのコア・メンバーは、4人です。4人全
員が異なる加盟国から来ている/異なる加盟国で働いている、ということが、
メンバー構成の際の条件となっていると聞きました。プロジェクトが一定の成
果を挙げた後には、ワークショップが開催されます。このワークショップに参
加するのは、上記4人のほか、34の加盟国から送り出された専門家1名ずつ、国
籍の異なる計34名です。

東アジアには、こうした仕組みはありません。中国では孔子学院が、日本では
国際交流基金が、韓国では韓国国際交流財団が、それぞれ、自国語を国外で普
及させようとしています。言語教育の専門家がつどう学会でも、少数の例外を
のぞけば、教育研究活動は言語別に行われています。けれど、もしかしたらだ
からこそ、言語教育を生きる私たち教師、教育研究者の活動が——きわめて限
定された文脈においては——時には決定的な意味を持つのかもしれません。他
者の言語を学ぶという行為は、きっと本質的には、自己のなかに異質なものを
認め取り入れていくこと、繋がりをつくっていくことなのですから——今だか
ら、なおさらに。簡単に他者をさげずんだり、声高に罵ったり、貶めたりする
言葉に、インターネットで、現実の場で、避けようもなく触れてしまう今だか
ら。

山口に暮らすことで、私自身がより学びたくなった言語は——繋がりをつくっ
ていきたくなった言語は、コリア語でした。もちろん、地理的に近いといって
も、コリア語ができないことで、生活に不便は全くありません。できるからと
いって、何かが有利になるということもありません。それでも、4月から、学内
で、週に一度のコリア語学習会を続けています。そしてこれもひとつのきっか
けにして、自分の意識と関心の焦点が、少しずつ、東京への一極集中からずれ
てきていることも感じています。

そして、会いたい人ができました。中韓をはじめとする、北東アジアの、異な
る地域/言語の教師たちです。既存の制度のないなかで、どのようにしたら出
会うことができるのか。6月の言語文化教育研究会でも議論の時間をいただきま
したが、引き続きしばらくはそれを模索する時間になりそうです。もし、これ
をお読みになって、アイディアがあれば、ぜひ、yamamoto.saeri@gmail.com
までお寄せください。

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◆◇【7月21日(金)開催】月例会 特別企画 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

月例会特別企画「社会につながる自己表現とは何か」を終えて

江﨑正(カセサート大学)
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現在教えている場所で5年という月日が過ぎました。わたしがタイで教えてい
て一番心の中に引っかかっていたものをトピックにしました。このトピックに
は、タイで近年起こった社会や政治の動き、教育の流れの影響、大学卒業後に
学習者に待ち受けている世界を考えた上で、「タイ人学習者がことばを使って
表現する」とは一体、何を意味するのかという大きな問いが根底にありました。
またこの問題はタイという限定的なものではなく、なぜ人は表現するのか、社
会と他者につながる表現とは何か、何のためのことばの教育なのか、という人
間すべてに共通する問題をも孕んでいるように感じていました。

この話題提供では自分が行った試行錯誤を「自分のことば」で話そうと心がけ
ました。参加者の方々とは、それぞれが異なる環境にいるので、わたしが教え
ている環境、背景をどうやって伝えれば、理解してもらえるのか、不安でした。
話題提供では、まずタイの社会の大きな問題を簡潔に述べました。そこから出
てきた問題意識をもとに、日本語コースで目指したもの、実践、学習者の変化
とわたしの変化についてお話しました。環境と設備の整った、社会も政治も安
定しているところで教えるのとは違う場所からの「試行錯誤の声」をもっと発
信するべきだという気持ちもわたしにはありました。それは予期しない出来事
に遭遇し、それを様々な方々(時には学習者であり、同じ学部の先生方や事務
スタッフの方々である)と一緒に協力して解決、またはいろいろな知恵を出し
て工夫をこらして何とかやっている場所からの「声」です。

1つ残念だったことは時間の関係で(わたしの話の時間が長かったせいで)、
参加者の方々からの「社会につながる自己表現」についての実践を聞くことが
できなかったことです。このトピックでは、実践として様々な取り組みがある
ように思えたので、参加者の方々からの取り組みや方法論を聞きたかったです。
それを聞いてまた自分の環境に適した形で取り入れたいということを考えてい
ました。

「社会につながる自己表現」とは、人が生きていく中での「他者との関わり」
「他者理解や自己理解への鍵」だと感じています。その中に「ことば」があり
ます。その「ことば」にわたしが、どう関わっていくのかが問われています。
その問いを考え続け、試行錯誤することは「外国語教育」の枠を越えて「人間
の教育」につながるのではないでしょうか。わたしの試行錯誤は今後も続いて
いきます。

※江﨑さんからの話題提供の内容に関しては、
 学会Webサイトに掲載されているスライドをご参照ください。
 http://alce.jp/monthly/2017/sp17b2.pdf

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◆◇【7月22日(土)開催】第53回月例会 報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「台湾・香港・韓国人日本語学習者数は800万人規模」からの、
「やさしい日本語ツーリズム」報告

吉開章(株式会社電通)
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まず発表の機会を提供していただいたALCEおよび関係者の方々に深く感謝した
い。本月例会には21名の方々が参加し、台湾・香港・韓国における趣味的で裾
野の広い学習者実態について、様々なご意見を参加者にも発表してもらった。

今回の発表のテーマは「日本語学習者そのもの」と「職業としての日本語教師
の可能性」でもある。「教室」という場所にこだわらず、自律的学習者にもっ
と注目すれば、日本語教師の専門性を多様な形で生かすことができる。それを
具現化するのが私のライフワークである。

これを当初から後押ししてくれたのがALCE関係者、その中でも瀬尾匡輝氏と古
屋憲章氏だと思っている。

1) 瀬尾氏との出会い

2014年、私が主催する「日本語コミュニティ」の生き生きした自律学習者を広
く関係者に伝えたいと思っていたところ、見つけたのが瀬尾氏(当時香港理工
大学)他の「余暇活動と消費としての日本語学習」という予稿集原稿(*1)だっ
た。

さっそく氏に直接ルートを作り自分の活動を紹介したところ、その年11月の第
10回日本語教育・日本研究シンポジウム(香港)での発表を勧められ、その後
論文集に採択されるに至った。この経験がその後の私の方向性を決定づけ、現
在に至っている。

現在、氏は茨城大学で言語学習の商品化・消費について研究を継続している。
私のコミュニティや今回発表したJFとの調査などで、今後氏の研究に恩返しが
できないかと思っている。

2) 古屋氏との出会い

2014年日本語教育の世界に入る上で私はまず「メディア」を探した。すると
「古屋憲章」という名前を各所で見た。そして氏の「日本語教師は職業か(*2)」
というエッセイに衝撃を受けた。古屋氏は瀬尾氏他の「つながろうねっト」にも
名を連ねており、何かあると確信し面会を申し込み、池袋で4時間ぐらい議論し
た。そこでは日本語教育の問題点の深さと、氏自身も模索中だということを理解
した。

それ以降、氏の発信する情報はとりあえず何でも注目するようにしており、ALCE
の会合にも足繁く通っている。そしてその会合の場からまた人脈を拡大させても
らっている。

ALCEの素晴らしさは、その敷居の低さとメンバーの多様性だろう。日本語教育の
社会的意義は、昨今新しい局面に入ってきた。学者でない、実務家メンバーとし
て日本語教育関係、そしてALCEに恩返ししていきたい。

*1 http://www.japanese-edu.org.hk/sympo/upload/manuscript/20121017115355.pdf

*2 http://storys.jp/story/5048

※吉開さんからの話題提供の内容に関しては、
 学会Webサイトに掲載されているスライドをご参照ください。
 http://alce.jp/monthly/2017/n53a.pdf

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◆◇おしらせ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

━【全文公開中】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆『言語文化教育研究』第14巻 特集「多文化共生と向きあう」

2016年12月30日公刊:http://alce.jp/journal/vol14.html

━【会員の皆様へ】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆理事選挙を行います—自薦他薦受付中(2017年9月10日締切)

言語文化教育研究学会は、発足して4年目になります。学会立ち上げのために発
足した理事は任期を満了します。理事の任期満了に伴い、学会規程および役員選
任手続きに関する細則に則り、理事選挙を行います。

理事の業務概要、理事選挙のスケジュール、理事選挙立候補および推薦の方法等、
詳細に関しては、学会Webサイト( http://alce.jp/ )をご参照ください。

━【発表者募集:2017年11月8日締切】第4回年次大会━━━━━━━━━━━━

第4回年次大会、ナラティブの可能性(2018年3月、立命館大学)

言語文化教育研究学会 第4回年次大会では、以下の要領で発表者を募集します。

・応募内容:言語・文化・教育に関わるもの(大会テーマ以外の内容も応募可能)
・応募締切:2017年11月8日(水)(日本時間23:59)
・応募資格:言語文化教育研究学会の会員であること
・結果通知(予定):2017年12月下旬

※未入会の方は、応募2週間前までに入会手続きをお願いします。
※会員は、当該年度の会費を応募2週間前までに納入してください。

・応募先・お問い合わせ:annual@alce.jp(年次大会事務局)

詳細に関しては、下記のWebページをご参照ください。

http://alce.jp/annual/2017/

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誌 名: 言語文化教育研究学会メールマガジン 第16号
発行日: 2017年8月20日
発行所: 言語文化教育研究学会 事務局
     〒187−8505 東京都小平市小川町1−736
     武蔵野美術大学鷹の台キャンパス三代純平研究室内
編集,発行責任者: 言語文化教育研究学会広報・連携委員会 古屋憲章
お問い合わせ・情報掲載依頼: ezine@alce.jp
メルマガバックナンバー: http://alce.jp/mailmag.html
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