言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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第12号(2016年9月21日)

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言語文化教育研究学会メールマガジン 第12号
ALCE: Association for Language and Cultural Education

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■ 第12号:もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
--◆◇学会事務局より◇◆----------------------------------------------

ALCE公認サークル活動報告 まき割りとピザ窯の会、活動開始!

--◆◇【7月9日(土)開催】月例会特別企画報告報告◇◆------------------

それでも議論を継続する必要がある        宇都宮裕章(静岡大学)

電荷を帯びることばの場             齋藤智美(早稲田大学)

言語教育と学習者の人生と私たちが暮らす社会の関係性
—特別企画「言語教育を生態学的に考える」に参加して—
                   江崎正(タイ国立カセサート大学)

--◆◇【7月23日(土)実施】月例会報告◇◆-----------------------------

「日系カナダ人はいかにしてカナダ市民となったのか
—多文化主義への移行期における市民運動から探る—」報告
            秋山幸(早稲田大学大学院日本語教育研究科院生)

--◆◇おしらせ◇◆----------------------------------------------------

【参加者募集:9月23日(金)】

久保田竜子・神吉宇一 基調講演上映会/言語教育の商品化と消費を語らう会

【発表者募集:11月6日締切】第3回年次大会

言語文化教育のポリティクス(2017年2月,関西学院大学)

【全文公開中】『言語文化教育研究学会 第2回研究集会in金沢 報告集』

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◆◇学会事務局より◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ALCE公認サークル活動報告 まき割りとピザ窯の会、活動開始!

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ALCE会員の皆様、こんにちは。まき割りとピザ窯の会、世話人の三代純平です。

去る8/27-30に言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア(http://gbki.org/ind
ex.html)にて活動を開始したことをご報告いたします。

昨年度、ALCEでは、顔の見える形で学会員が交流できる場を増やそうという趣
旨で、分科会とサークルという二つの制度ができました。まき割りとピザ窯の
会は、サークルとしてALCEに認定された第1号になります。世話人の怠慢から、
認定後、活動開始まで1年の期間を要してしまいましたが、この度無事活動を開
始しました。

しかも、怠慢な世話人は、遅れて合流したため、到着したときには、すでにピ
ザ窯は完成していました。本サークルを立ち上げた背景には、学会発表のよう
な場とは異なる環境で、じっくりと研究や実践について語り合う場を学会員の
皆様と共有したいという想いがあります。

大自然の中、ゆっくりと燃えるまきを眺めながら、言語文化教育について語り
合いたいという方のご参加お待ちしております。活動の様子は、随時、フェイ
スブックに掲載していく予定です。

https://www.facebook.com/alcemakiwaritopizagama/

サークルへの入会を希望される方は、三代(miyo@musabi.ac.jp)までご連絡
下さい。

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◆◇【7月9日(土)開催】月例会特別企画報告◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

月例会特別企画「言語教育を生態学的に考える」報告

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7/9に行われた月例会特別企画「言語教育を生態学的に考える」では、まず、
齋藤智美さんが、自身が日本語教育実践を行う中でどのような違和感を覚えた
か、その違和感に基づき、どのような実践を行ったかを語りました。次に、宇
都宮裕章さんが、有機体の多様性、生態系の均衡性、環境全体の持続可能性の
大切さという生態学的な観点から現在の教育研究に対する素朴な疑問を提示し
ました。(齋藤さん、宇都宮さんの発題内容に関しては、学会WEBサイトに掲載
されているスライドをご参照ください。 https://alce.jp/spec16 )

その後、二人から提供された話題を題材に、齋藤さん、宇都宮さん、古屋憲章
(司会、月例会委員)で生態学的な観点で捉えることにより、言語教育実践が
どのように変わっていくか等に関し、やりとりしました。そして、そのやりと
りに参加者の方が自然に入ってくるような形態で進行していきました。結果的
に、生態学的な視点をもとに、参加者が各自の教育実践を振り返る機会になっ
たように思います。

以下、宇都宮さん、齋藤さん、(参加者の一人である)江崎さんから寄せられ
た感想をご紹介します。

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それでも議論を継続する必要がある

                        宇都宮裕章(静岡大学)
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「それでも議論を継続する必要がある」という何とも締まりのない締めをして
しまいましたが、今のところこれが私にできる限られた提案です。今回の意見
交換を通して改めて教育問題の根深さが身に沁みました。より良い授業とは何
かを知っているのに、また今の取り組みには不適切なところがあると自覚して
いるのに変えられない、まさにベイトソン流ダブルバインド状況です。ただ、
変えようとしない者の意識や力量不足を指摘するだけでは(これまでの対応か
らも予測できる通り)建設的な議論にはなりません。何より、原因を一つに絞
ることは叶わないと考える、むしろその原因自体も複雑な関係性の中から生ま
れてくる現象にすぎないという捉え方は生態学的な観点の一つです。

残念ながら、限られた時間内ではそこまでの話に至りませんでした。しかしな
がら、(議論の継続に加えて)有用な方策も示唆されたようにも思います。人
はシステムの不備を了解していてもその有用性を認めると、特にそれに守られ
ている、それが自分の居場所を示すものであると強く感じると、あらがいはす
るもののすべてを破壊できなくなります(すみません、人間の心理がシステム
で統御されたある近未来物語の受け売りですが)。これを否定的に見ると「諦
め」ですが、あらがう余地が必ず残っているという意味ではシステム改変につ
ながる希望だと思います。不適切な出来事をシステムの(あるいは誰かの)せ
いにすることは楽ですが、私たち自身も当該システムの一員(参加者)である
ことをもっと積極的に考えるべきでしょう。多様性を活かす、均衡を保つ、持
続可能性を探る、これらは四十余億年かけて地球上の有機体が採ってきた選択
肢でもあるわけですから。

今回私のわがままで、「まったくシナリオを用意しない」形式での開催となり
ました。議論に一貫性が生まれなかったことは大変申し訳なく思いますが、私
自身はとても楽しいひとときを過ごすことができました。参加された方々に、
心から厚く御礼申し上げます。

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電荷を帯びることばの場

                        齋藤智美(早稲田大学)
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日々、小さい、面白そうな「何だろう?」に出会うなかで、時折、「何なんだ
!?」という衝撃を受けることがあります。今回の会は、その衝撃から始まった
実践研究を素材に始まりました。

わたしたちは、いつも何か疑問が湧いていたり、解けない疑問を持ち続けてい
たりしながら、何かを実践していると思います。その中には、その教育機関固
有の問題と言われるものもあるでしょう。けれど、その原因や解決は、真に個
別固有の問題としてそのシステムに帰結させても、何か見かけ上収束させたに
すぎないのかもしれません。

何か普遍的な「何だろう?」「何なんだ?」があるわけでもないでしょうけれ
ど、いつも同じようなところに疑問を感じます。話しても、話しても、それは
尽きることがありません。イマ、ココで話されるコトバが、何処に向かうのか
を計画することはできないけれど、何か、いつも同じような「何だろう?」
「何なんだ?」が生まれてくるのは「何なんだろう?」。

月例会は、渾沌として終わったような印象ですが、そもそも収拾をつけるもの
でもない、斉えるものでもない、ゆるやかに思いを巡らせられる場でした。こ
のときの随意のコトバたちは、このときのこの関係性からやりとりされ、そし
て、混沌としているようでいて建設的な電荷を帯びていました。ローレンツ力
を感じながらのやりとりは愉しく、それをもとに考え続けられることを幸せに
思います。

ご一緒させていただいた方々、ありがとうございました。

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言語教育と学習者の人生と私たちが暮らす社会の関係性
—特別企画「言語教育を生態学的に考える」に参加して—

                   江崎正(タイ国立カセサート大学)
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7月に行われた言語文化教育研究学会の特別月例会「言語教育を生態学的に考え
る」に参加しました。言語教育を生態学的に考えるとは、1)多様な言語・価
値観を理解する/受容する場、2)学習のプロセスを評価する場、3)構築と
解体の間/成功と失敗の間を行ったり来たりする場をデザインし実践していく
ことになると書かれていました。私はテーマに興味を持ち、私の体験と結び付
けて、具体的に何を意味しているのか、自分なりの言葉で消化できたらと思い、
参加しました。

この月例会では、学習者が教室で勉強していることと(学習者の)日常生活と
が結びついていないと教師が感じた事、学習者から「先生、おしゃべりしてい
ないで、試験対策の勉強をしてください。」と言われたこと、能力試験に特化
したものをしなくても、学習者の力を伸せる方法があることはわかっているの
に、試験の解き方と答え合わせばかりしているのはなぜか、学習者の多様性を
削り取ってまで行われている言語教育とは何なのか、問題があるのに変えられ
ない/変わらない原因は何か、という問題点が出てきました。海外での日本語
教育との違いも共通点も両方、感じられました。日本では能力試験に合格しな
ければ、大学や専門学校の入学に影響が及ぶという理由から、試験対策のクラ
スで起こる問題点が、タイで教える際の問題点とは少し違うと思いました。ま
た共通の問題点として問題の所在がわかっているのに、なかなかそれを変えら
れないのはなぜか、という点でした。これらの問題点を聞いて感じたことは、
言語教育と学習者の人生と私たちが暮らしている社会の関係が見えにくくなっ
ていて、とても息苦しい言語教育のイメージが浮かび上がってきました。

月例会に参加した後で気づいたことは、言語教育を生態学的に考えるというこ
とは、学習者が今学んでいる言語と学習者の人生と私たちが暮らしている社会
の関係を考えることではないか、ということです。その視点を得ることによっ
て、言語教育に対して様々な問いかけができます。そうすると、言語教育の目
標、内容、進め方、評価基準などすべてが変わっていく可能性を秘めています。
例えば、わたしの場合であれば、タイの大学を卒業したあとで学習者に待ち受
けている世界とは、どんなものなのか、を考えてみました。タイの日系企業で
働く、日本へ行って勉強を続ける、または日本で働くことが考えられます。
(別にまったく日本に携わらない世界であってもいいわけですが。)学習者が
体験する世界とは、人が移動する世界、異なる人同士が共に生きていく世界が
待ち受けています。そこでは自分なりに考え、自分で決めて、自分の言葉で表
現していくこと、伝えることや多様性に富んでいる世界への気づきが重要にな
ってきます。わたしの実践例では、異文化に触れる/様々な背景の人たちに出
会う体験を学習者にしてもらおうと思い、去年と今年カセサート大学にいる日
本人留学生を実際に日本語クラスに呼んで、話をしてもらいました。その出会
いから、また様々なものが日本語学習者にも日本人留学生にも生まれていきま
した。このような場(種を蒔く場)を作っていくことも、生態学的視点から得
られたことの1つではないか、と思っています。

以上のようなことを特別月例会に参加して感じました。日本語教師が置かれて
いる環境は1人1人違います。それぞれの場所での様々な制約、問題点を抱え
ながら教えています。教師1人1人が様々な問いや試みを持ち込んで、報告し
話し合う、そこから新たな発見をしてまた自分の場所へ戻っていくというプロ
セスを続けていくことが大切だと思っています。

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◆◇月例会報告【7月23日(土)実施】◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「日系カナダ人はいかにしてカナダ市民となったのか
—多文化主義への移行期における市民運動から探る—」報告

            秋山幸(早稲田大学大学院日本語教育研究科院生)
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第44回月例会において発表の機会をいただきましてありがとうございました。

カナダに永住を予定する日本語家庭の親の言語実践、言語教育観が、わたしの
研究のテーマです。「日系カナダ人」が「カナダ市民になる」過程に焦点を当
てたのは、日本語家庭の親がカナダ社会の立ち位置を模索する過程に重なりが
あるという捉え方を試みようとしたからです。そのはじめの段階として、今回、
「日系カナダ人」がどのように社会における立ち位置を確立していったかとい
う視座でお話させていただこうと思いました。

月例会では、主に次のふたつのことを話しました。

①「日系カナダ人」は市民運動を通してカナダ社会での立ち位置をどのように
 模索し、二世の教育はどのように変遷したか
②「日系カナダ人」が求めた「カナダ市民」としてのあり方は、当時のカナダ
 社会においても多様な文化背景を持つ人と共に生きる「カナダ市民」像を模
 索するものであった

参加者のみなさまには、二世・三世が一世から「受け継いだもの」という表現
の解釈をめぐりコメントをいただき、また、帰属意識に関するアイデンティ
ティの議論にも展開しました。「受け継ぐ」の解釈をめぐり、「わたしたちも
受け継ぐ」と捉えることをどう考えるかというご質問、あるいは、ことばと市
民化の関係をどう考えるかというご質問は、わたし自身が研究をすすめるうえ
で基底としている概念(文化的発達、言語的社会化)に触れるものとなりまし
た。

「文化的発達、言語的社会化という概念にまた戻ってきた」という感触を得ま
した。これを機会に、もう一度、基底概念に戻ってこれまでの調査を振り返っ
てみることにいたします。

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◆◇おしらせ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

━【参加者募集:9月23日(金)】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆久保田竜子・神吉宇一 基調講演上映会(事前申込不要・入退場自由)

2016年7月16-17日に香港大学で開催された「言語教育の『商品化』と『消費』
を考えるシンポジウム」の基調講演と対談を上映します。上映後は「語らう
会」を開催し、おいしい中華料理を囲みながら、みんなで一緒にこのテーマ
について話し合いたいと思います!「語らう会」のみの参加、上映会の一部の
みの参加も可能ですので、みなさまぜひお越しください!

2016年9月23日(金)

場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 22号館 502教室

17:00〜 久保田竜子 消費としての学び—言語学習のフレームを問い直す—
18:00〜 神吉宇一  ことばの教育、「商品化」、「消費」
19:00〜 久保田竜子×神吉宇一 対談


◆言語教育の商品化と消費を語らう会(要事前申込)

2016年9月23日(金)20:00〜

場 所:佳里福(東京都新宿区西早稲田1-8-14 メゾン早稲田1F)
参加費:1,500円(ワンドリンク付)
申込先:以下の内容をメール本文にご記入の上、meeting@alce.jp(言語文
        化教育研究学会研究集会実行委員会)までお申し込みください。

     件名: 語らう会参加希望
     本文: お名前
         言語文化教育研究学会 会員/非会員の別

━【発表者募集:11月6日締切】第3回年次大会━━━━━━━━━━━━━━

第3回年次大会,言語文化教育のポリティクス(2017年2月,関西学院大学)

言語文化教育研究学会,第3回年次大会では,以下の要領で発表者を募集します。

応募内容: 言語・文化・教育に関わるもの(大会テーマ以外の内容も応募可能)
応募締切: 2016年11月6日(日)(日本時間23:59)
応募資格: 言語文化教育研究学会の会員であること
結果通知(予定): 2016年12月下旬

未入会の方は,応募2週間前までに入会手続きをお願いします。
会員は,当該年度の会費を応募2週間前までに納入してください。

応募先・お問い合わせ:annual@alce.jp(年次大会事務局)

詳細は下記をご参照ください。

https://alce.jp/annual/index.html

━【全文公開中】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『言語文化教育研究学会 第2回研究集会in金沢 報告集』
テーマ:人類学・社会学からみたことばの教育
    —言語教育における言語イデオロギーを考える—

https://alce.jp/meeting/past.html#p02b

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誌 名: 言語文化教育研究学会メールマガジン 第12号
発行日: 2016年9月21日
発行所: 言語文化教育研究学会 事務局
     〒187−8505 東京都小平市小川町1−736
     武蔵野美術大学鷹の台キャンパス三代純平研究室内
編集,発行責任者: 言語文化教育研究学会広報・連携委員会 松井孝浩
お問い合わせ・情報掲載依頼: ezine@alce.jp
メルマガバックナンバー: https://alce.jp/mailmag.html
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