2020年度 例会
【第70回:11月7日】オンライン開催
「場」を問い直す「場」――研究と実践の蓄積と体系化を目指して
日時: 2020年11月7日(土)10:00~ 12:30
会場: オンライン(zoom)開催
参加方法: 締切りました。参加費無料,非会員の方もご参加になれます。
定員: 40名※
お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
チラシをダウンロード
※定員に達し次第、登録を締め切らせていただきます。
話題提供: 大平幸さん(山梨学院大学),八木真奈美さん(駿河台大学),
嶋津百代さん(関西大学),三代純平さん(武蔵野美術大学)
本企画では,近年,大きく変化しつつある日本語教育研究において,様々な文脈にわたる研究や実践を捉えるための枠組みとして,また,ことばと学びの活動をより深く理解するための視点として,「場」を取り上げます。「場」は日常的に使用されていることばであるがゆえに,その定義は多様に可能です。多様に解釈可能である「場」を切り口にし,日本語教育あるいは日本語学習をめぐる議論の中で,「場」がどのような意味を持つか,「場」が与える学びの性質にはどのようなものがあるかを,4人の話題提供がかかわるそれぞれの「場」をもとに考えていきます。
なお,話題提供後は,「皆さんにとっての「場」とは何か」という問いを出発点とし,参加者の皆さんとのディスカッションを行います。わたしたちは日々複層的な文脈にまたがって活動しています。そして,その活動のどの側面を焦点化させるかによって,「場」は異なる姿をあらわします。ディスカッションにおいて,参加者の皆さんと,「場」を視点に,あるいは枠組みにして捉えた研究や実践について語り,対話を積み重ねることで,多様で流動的で創造的な「場」を,可能な限り捉えていきたいと思います。
このような願いから,今回は参加者の方の人数に定員を設けさせていただきました。わたしたちと一緒に「場」について考えてくださる方の参加をお待ちしています。
話題提供者: 大平 幸(山梨学院大学)
「女子トーク」は何でできている?――外国人スタッフと日本人スタッフがともに働く「場」において生まれる意味
日本で生活する外国の人たちが,職場においてコミュニティに共有された意味と価値にどのようにアクセスしているのかを明らかにするため,フィールド観察を行った。調査協力者は,結婚をきっかけに来日した女性である。協力者が働く様子を観察したチャリティ・ショップでは,寄付によって集めた衣料品を販売し,団体の運営や他の団体の支援にあてている。その店における服の意味や価値は,服のおかれた「場」によって異なるかたちで現れていた。チャリティ・ショップでは,協力者が職場においてコミュニティに共有された意味と価値にアクセスすると同時に,協力者と日本人スタッフが,それぞれの生活における言語レパートリーを持ち寄り,やりとりを行う様子が捉えられた。職場はあくまでも仕事のための「場」である。しかし,このようなやりとりが生起した時,その「場」はどのような力を持ち,どのような意味を持つのかを考えたい。
話題提供者: 八木 真奈美(駿河台大学)
「場=空間(Space)」の視点から見る移住者のライフ
本発表では「場」は多様に解釈可能だというパネルセッション全体の前提を踏まえた上で,「場」を「場=空間(Space)」と捉え,研究協力者である移住者の日本での生活を「空間(Space)」の視点から考察する。一般的に「場」は,家や会社など物理的な「場」である。また,「場の雰囲気」などと言う場合でも,ある一定の物理的「空間」を指すと考えられるが,本ケースでは,ある人の意味づけから戦略的に構築される,幾重にも重なった「場」=「空間(Space)」を「抵抗の空間」として紹介し,参加してくださる方との議論の俎上にのせてみたいと考える。
話題提供者: 嶋津 百代(関西大学)
「場」の解釈によって形成される「場」――日本語教育実習生が求めた学び
「「場」の解釈によって形成される「場」―日本語教育実習生が求めた学び―」では,活動の参加者による「場」の解釈がいかに「場」を形成していくかを,大学院日本語教育実習生の模擬授業後の振り返りディスカッションと,教育実習後の実習生に対するインタビューから明らかにする。ディスカッションでは,言語教育観などのビリーフの違いが顕著になると,模擬授業を行った実習生は他の実習生のコメントを個人的な非難として捉え,活動自体を否定してしまう傾向があった。また,インタビューでも,ディスカッションに対する期待と目的が実習生間で異なると,学びの価値と可能性をそれぞれが自ら決定づけてしまうことが窺えた。これらの例をもとに,「場」の解釈と形成と記憶,そして参加者の期待と目的と学びの関連について考察する。
話題提供者: 三代 純平(武蔵野美術大学)
越境による学びの場としての産学共同プロジェクト
カシオ計算機株式会社(CASIO)と武蔵野美術大学(MAU)が取り組んだ産学連携「にっぽん多文化共生発信プロジェクト」がどのような学びの場を形成したかを紹介する。2018年度のプロジェクトでは,MAUの上級日本語の授業として,受講生とCASIOの社員が,多文化共生を支える取り組みをしている団体を取材し,ドキュメンタリー映像を制作した。このプロジェクトには,留学生,日本人学生,複数の教員,CASIO社員が参加し,同時に取材先で多くの方との交流を経験した。多様な背景をもつ参加者がそれぞれの立場からプロジェクトに参加し,共に多文化共生とは何かという大きな問いを考え,考えるために多くのコミュニケーションを重ねた。この経験が大学における日本語教育という場においてどのような意味を持ちうるかを議論する。
参考
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【第69回:9月26日】オンライン開催
生きていることばの教育で,なぜ「自分の物語」が大切なのか――タイの大学で行った日本語コースにおける実践を事例として(江崎 正さん)
当日のスライドをダウンロード
日時: 2020年9月26日(土)14:30〜 17:00
会場: オンライン(zoom)開催
参加方法: こちらから事前参加申し込みが必要です 。定員に達したため締め切りました。 参加費無料,非会員の方もご参加になれます。
定員: 20名※
お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
チラシをダウンロード
※定員に達し次第、登録を締め切らせていただきます。
参加される方へのお願い
原則としてカメラオンでお願いします。
充実した話し合いとなるよう、情熱をもって積極的に発言されることを歓迎します。
今回は開催の趣旨に照らし、定員を設けます。定員の有無は回ごとに異なります。
江崎 正さん(タイ・カセサート大学カンペンセン校教養学部)
本企画では,私がタイの大学で行った選択科目「私たちの生活と大学と自分から(考える,動く) ~よりよいKUKPS(カセサート大学カンペンセン校)のために~」における実践を事例として,『生きていることばの教育で,なぜ「自分の物語」が大切なのか』について考えます。
まず前半に,「自分の物語」が大切になった背景を説明,その次に日本語コースの実践報告をします。そのあと前半の問題提起「自分の物語」について話し合いを行います。後半は実体験や実践を通して考えた「なぜ自分の物語が大切なのか」そして「対話が目指すもの」について私なりの考えを述べます。最後に後半の問題提起「対話」についての話し合いを行います。
前半
2017年7月の話題提供「ALCE特別企画「社会につながる自己表現」とは何か―タイの大学で行った日本語エッセイクラスにおける実践を事例として―」のその後
2017年7月の話題提供のあと,私の関心は,日常生活の中や身近なところからの自己表現が,自分の暮らしている地域や社会の問題へと,どう結びついているのか,その結びつきをどのように日本語コースの中で展開していくのか,そのつながりに気づく「ことばの教育」とはどうしたら実現できるのか,を考えていました。
視覚障がいと向き合って見つけた「自分のことば」で「自分の物語」を
それと同じ時期に,私の教育観や言語観に大きな影響を与えたものとして私が抱えている網膜色素変性症という「見えにくい」視覚障がいとの向き合う日々がありました。障がいに関する悩み,葛藤,疑問が出てくる中で,様々な方々に出会い対話をする機会がありました。その過程で,自分の行動は自分のためだけではなく,自分の行動が社会の中でどういう意味を持ってくるのかという点に気づきました。「自らがオープンに発信していく」という新しい視点も得られました。そして私が担当する日本語クラスの学習者たちに自分の障がいについて説明したときに「自分のことばで自分の物語を表現していく大切さ」にも気づきました。私が抱えている障がいを語るという当事者の表現は,「自分にしかできない表現」であり,ほかの誰かに代わってしてもらうことはできません。その気づきから,次に私が考えたことは,自分の生活の中にある事柄と他者との関わり合いの中から生まれてくる「自分の物語」を,ことばの教育でどう展開していくか,ということでした。「私の物語」は,どんな背景を持っていようが人間であるなら,誰もが持っているもので,それを日本語コースで「一人ひとりの物語」として表現する場を作りたいと思うようになりました。
日本語選択科目「私たちの生活と大学と自分から」での実践
そのような体験を経た私は,次のようなコースを作りたいと思うようになりました。
たくさんの「どうして?」や「言いたい,書きたい,伝えたい」の感情を引き出す。
「自分の体験,日常生活,身近に起こっていること」と「自分が暮らしている地域や社会」との間をつなげる。
誰も答えを持っていない中で,他者と交わりながら考える。
じっくり一つのテーマを掘り下げる。
この四つの要素をこの「私たちの生活と大学と自分から」のコースに散りばめました。コースで取り上げる場所を学習者たちの「大学」にして,それを「学生生活」と結びつけました。そして大学と学生生活を過去,現在,将来という時間軸で考えていきました。まず初めに高校生の自分に戻り,そのときに感じていた大学のイメージと「なぜ大学へ行こうと思ったのか」について振り返りました。その次に履修者が家族に「私(履修者)が大学へ行っていることについて,どう思っているか」のインタビューを行いました。そのあとは,今学んでいる大学の問題点を一人ひとりの体験から感じている大学の問題点を挙げ,大きいカテゴリーに分けました。そして,問題点と解決策のアイデアを一緒に考えました。このクラスでは,①学びの環境に関する問題,②自由の問題としての大学生の制服の規則と規則を変えるには?,③安全な学生生活をキーワードにして,交通アクセスに関する問題の解決策を考えました。そこでキャンパス内と大学周辺を走るバスのアイデア,を取り上げました。最後にこのコースのまとめとして「大学生活で一番大切なことは?」について学習者一人ひとりが考えました。私たちが話し合った内容は,すべて形にして一冊の作品集(→参考資料)にまとめてあります。
前半の問題提起
過去に,どんな「わたしの自分の物語」や「他者の自分の物語」に出会いましたか。どんな場面で,それは起こりましたか。
毎日の暮らしの中で「自分の物語」にどのくらい関心がありますか。どのくらい大切だと思いますか。そこには,どんな理由がありますか。
後半
視覚障がいの体験と実践クラスを通して,「なぜ自分の物語が大切なのか」と「対話が目指すものとは何か」の私なりの答え
どうして「自分の物語」が大切なのか,という問いは言語活動の本質を突いていると思います。自分から言いたい,伝えたい,わかってほしいという感情から出てきた「自分のことば」とは,他の人が自分の代わりになって表現することはできません。またほかの誰かにお願いして表現してもらうこともできません。私の実体験と実践クラスから考える「自分の物語」とは,自分の過去の体験,常に変化する感情,毎日の生活,今置かれている状況,将来を想像する力,日々の他者との関わりの中で変化し続ける考えや意見であり,一人ひとりが異なる文脈を持っています。なので「自分の物語」は,その本人自身にしか表現できません。だからこそ毎日の生活の中で「自分の物語」は大切になり,他者との対話が必要になってきます。そこを扱うことが「ことばの教育」だと考えています。
わたしの言語観の根底にあるのは,「自分の物語がお互いにぶつかり合う場が対話だ。そしてぶつかり合うことで化学変化が起こる」と考えています。そしてその対話が目指すものとは何か。私の場合,視覚障がいのピアカウンセリングや違う障がいに関わる方々との対話を通して「よりよく生きること」に気づきました。そして実践クラスの対話を通して「主体意識(自分たちが社会を動かしているという感覚)を持つこと」も対話の目指すものだと感じました。その対話の目指す「よりよく生きること」や「主体意識」は,幸福や社会変革のための「熟議の土台作り」になると思っています。だからよりよく生きることや社会変革を目指す私のことばの教育では,「自分の物語」と「対話」が大切になります。
異なった文脈を持つ自分の物語が,ぶつかり合う場を作るのが,私の役目だと感じています。「表現したい」という感情が表に出てくるように学習者を様々な方法でサポートすることが,生きていることばの教育では鍵になると感じています。
後半の問題提起
日常生活や職場で,どのくらい身近に対話の場がありますか。どのくらいオープンに対話ができていますか。みなさんが暮らしている場所で,どのくらい対話が根付いていると思いますか。
みなさんが考える「対話が目指すもの」とは何ですか。(わたしの場合,視覚障がいのピアカウンセリングや違う障がいに関わる方々との対話を通して「よりよく生きること」,そして実践クラスの対話を通して「主体意識(自分たちが社会を動かしているという感覚)を持つこと」が対話の目指すものだと感じました。)
参考資料
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【第68回:7月25日】オンライン開催
幸福大国・デンマーク流教育のかたち――フォルケホイスコーレ(大人のための学校)への留学と,学校訪問の体験を通して見えたもの (宇佐川拓郎さん)
話題提供: 宇佐川 拓郎さん(小鹿野町地域おこし協力隊)
日本の新学習指導要領が幼稚園より順次施行が始まっている。そこでは,日本の公教育の「方向転換」の一部分を垣間見ることができるように思われる。その「新しい教育のあり方」におけるヒントの一つが,北欧,中でも近年,幸福大国とも位置付けられるデンマークに落ちているのではと,私は感じた。
デンマークには,農民や市民の力で「民主的な教育環境」を築いてきた歴史がある。それは,フォルケホイスコーレ運動やフリースクール運動として準備され,教育の民主化を担い,デンマーク社会の民衆主導の近代化においても見逃せない影響を及ぼしてきたと言える。中でもフォルケホイスコーレは,大人のための学校とも呼ばれ,全寮制のもと18歳以上の大人が学びと寝食を共にすることで,相互作用による「生の啓発」が起こる場として独特かつ重要な存在感を放ってきた。
そんなデンマークの教育と市民社会の民主化に影響を与えてきた学校に魅惑されて,私はフォルケホイスコーレの一つに留学することに決めた。そこでの実際の体験を報告することを通して,日本の「これからの教育」を考えるきっかけ作りができれば幸いである。
参考
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【第67回:6月27日】オンライン開催
「日本社会」の再創造に向けて――New Face of Japanプロジェクトが果たす役割 (オーリ リチャさん)
話題提供: オーリ リチャさん(千葉大学)
今回,話題提供するオーリ リチャさんは,昨年10月に「もっと多様でインクルーシブな日本社会へ」をモットーにNew Face of Japan(ニュー フェース オブ ジャパン)プロジェクトを立ち上げた。
日本には様々な背景を持つ人たちが住んでいるという現実がある。しかし,その現実に追いついていないマジョリティ側の自覚が課題として立ちはだかる。New Face of Japanプロジェクトでは,その課題に焦点を当て,本質を明らかにし,日本社会の構成員全員で共有し,議論し合いながら解決の糸口を模索する場作りを目指す。主にインスタグラム,フェイスブック,ツイッターなどのSNSを通して活動を公開している。具体的には,不安,苦痛,疎外感などのような生きづらさを抱える当事者にインタビューを行い,その語りを公開し,語りから浮かび上がったテーマをポスターとして表現する等の活動が行われている。
今回の例会では,オーリさんからNew Face of Japanプロジェクトのコンセプトと活動内容を紹介していただいた上で,日本社会の構成員一人ひとりをいかに「日本社会」をインクルーシブ化する運動に巻き込んでいくかを議論する。
参考
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【第66回:4月26日】オンライン開催
外国語教育の新しい形を求めて――英語以外の外国語を学ぶ意義と,その実践について考える (池谷尚美さん,阪堂千津子さん,西香織さん)
日時: 2020年4月26日(日)15:00〜17:00
会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 502教室(予定)[アクセス ] 新型コロナウイルス感染拡大のため,オンラインでの開催に変更いたします。
参加方法: 参加費無料.申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
参加をご希望の方はZOOMミーティング971546667 よりご参加ください。 当日はzoom上で話題提供者と参加者、あるいは参加者どうしで話し合う場も作れればと考えております。奮ってご参加ください。
お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
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話題提供: 池谷尚美さん(横浜市立大学),阪堂千津子さん(武蔵大学),西香織さん(明治学院大学)
当例会では,英語以外の外国語教育と社会に「つながる」言語教育についての意義を考えていきます。様々な背景を持つ人たちが日本で暮らしている現在,言語教育が社会で果たす役割やその方向性も変化しているのではないでしょうか。また,外国で日本語を教える場合,その意味や目的はその社会とどのように結びついているのでしょうか。
話題提供者3名は,今まで「価格」「音楽」「街の標識」「平昌オリンピック」「外国人が日本で感じる違和感」「日本旅行で使える表現集」をテーマにそれぞれの言語クラスでプロジェクト学習を行い,その結果をお互いの学生同士で共有し,相互学習につなげる取り組みを行ってきました。当例会では,今までの3言語共同プロジェクト全体を振り返り,それを基にして,これからの外国語教育の在り方や今後の方向性を議論します。
参考
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