言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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2016年度 特別企画

特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」

本会は,2017年3月18~19日に開催される,第2回「日本語教育学の理論と実践をつなぐ」国際シンポジウム(第二届“理论与实践结合的日语教育学”国际研讨会)に続き,実践研究をめぐる諸問題の検討とともに,「実践研究」に対する理解を深めることを目的としたものです。企画者である私たちは,細川,三代(2014)を踏まえつつ,実践研究活動を実施する中で,現時点で,実践研究を次のように捉え直しています。

1.生成・探求型の教育研究

実践研究とは,「ありたい未来」のために,教育実践者が自身の実践を対象に行う実践と省察のサイクル(実践の計画→ 実践の実施→実践の省察→省察に基づく次の実践の計画→実践の実施→実践の省察…)を基盤とする生成・探求型の教育研究です。

2.実践研究を支える省察

実践研究における実践研究活動は,自らの実践に対する省察に支えられています。この省察は,実践研究そのもののデザインの枠組みをも捉え返し,自らの実践研究のあり方を模索し,試行錯誤を繰り返す,動的で絶え間ない活動と言えるでしょう。

上述の実践研究を行う際,私たち企画者は,自らの実践を次のような観点から省察することが可能となるよう心がけてきました。

  1. 実践を支える実践者の言語観,学習観,教育観,人間観といった価値観
  2. 実践と社会的文脈や環境との関係性
  3. 実践の中で生起したことがらや「学び」の意味性

1.は,「私はなぜ,今,ここで,この実践を実施する/している/したか」という当該の実践の根幹を省察する観点です。なぜなら,実践が常に実践者の言語観,学習観,教育観,人間観を基点に計画され,実施されることに加え,それらの価値観が実践全般の評価の基準にもなるからです。2.は,当該の実践と実践を取り巻く社会的文脈や環境との関係性を省察するための観点です。そして,3.は,実践の中でどのようなことがらや学びが生起したかを省察するための観点です。

以上の実践研究観を踏まえ,実践研究に携わる方々,また,実践研究をスタートしたいと思っている方々とともに,実践研究をめぐる諸問題に関し,「今(2017年3月19日午後から),ここで(中国の北京の高等教育出版社の場で),ここに集まったみなさんと(本会の参加者の方々や企画者と)」ともに,忌憚のない対話と議論をとおして,新たな問いや課題を見出していきたいと願っています。

  • 細川英雄,三代純平(編)(2014).『実践研究は何をめざすか――日本語教育における実践研究の意味と可能性』ココ出版.
企画者
細川英雄(早稲田大学),今井なをみ(早稲田大学日本語教育研究センター),武一美(早稲田大学日本語教育研究センター),古屋憲章(武蔵野美術大学)

開催要領

  • 日時: 2017年3月19日(日)14:00~17:00
  • 会場: 高等教育出版社总社4层报告厅(北京市西城区德胜门外大街4号A座)
  • 共催: 言語文化教育研究学会,北京日本学研究センター
  • 話題提供: 細川英雄(早稲田大学),佐藤慎司(プリンストン大学),塩谷奈緒子(東京電機大学)

13:30より会場にて参加者が行った実践の成果物等を展示する予定です。例えば,今井・武・古屋は,3年にわたって実施した,中国において日本語を主専攻とする大学生を対象とする短期研修プログラムの各科目の成果物等を展示します。

参加申し込み

メールに下記の事項を記載のうえ,(ALCE事務局)までお送りください。

  • 件名: 言語文化教育研究学会 特別企画 IN 北京「実践研究は何をめざすか」参加
  • 本文: お名前,ご所属,連絡先メールアドレス

※当日参加も歓迎いたします。

竹田青嗣氏講演会「言語ゲームと人間」

言語教育は何を目指すべきなのか――おそらくALCEに集う言語教育者たちはこの問いを抱えて,日々自らの現場に向き合っているに違いない。

言語教育の意味や価値を考えるには,時に哲学的な思考が必要となる。伝統的に哲学的思考は,人間的生や社会の本質(意味や価値)を探究してきた。例えば,『純粋理性批判』におけるカントの「アンチノミー」(形而上学の棄却)の議論や,ヘーゲルが『法の哲学』において展開する「自由の相互承認」の議論にその一つの到達点を見ることができるだろう。

そのような哲学の伝統的思考を自覚的に鍛え直したものこそ現象学的思考である。現象学は社会相対主義や脱構築を乗り越えるための一つの視座を提供する。多様な価値の存在する現代社会における新たな価値の創出と社会システムの構築はいかに可能であろうか。竹田現象学は,ものごとには誰もが納得し得る普遍的な本質があるという立場に則って,本質観取という方法を使ってその本質を明らかにしようとする。このような竹田現象学の思想は,言語教育における市民性形成や多文化共生に関する議論と重なり合う。

本企画では,言語教育における議論を現象学的思考で捉えることを試みる。言語教育は何を目指すべきなのか。竹田現象学はその問いに一つの示唆を与えてくれるだろう。

  • チラシ:日時: 2017年2月3日(金)18:30~20:00
    • 18:30~19:30 :講演
    • 19:30~20:00 :質疑応答
  • 会場: 早稲田大学早稲田キャンパス22号館502教室[アクセス
  • 参加費: 無料
  • 事前申込: 不要
  • チラシをダウンロードする

講師: 竹田青嗣(たけだ せいじ)氏

1947年大阪生まれ。在日韓国人二世。早稲田大学政治経済学部卒業。現在,早稲田大学国際教養学部教授。哲学者・文芸評論家。在日作家論から出発。文芸評論,思想評論とともに,実存論的な人間論を中心として哲学活動を続ける。大学では,哲学,現象学,現代思想などを担当。プラトン,ニーチェ,フッサール現象学を基礎として,哲学的思考の原理論としての欲望論哲学を構想・執筆中(2017年6月刊行予定)。

※詳しい研究および活動内容に関しては,公式サイトをご参照ください。

言語教育を生態学的に考える

話題提供者: 宇都宮裕章さん(静岡大学),齋藤智美さん(早稲田大学)

生命体をめぐる生態学においては,有機体の多様性,生態系の均衡性,環境全体の持続可能性の大切さに基盤を置き,それらの実証が進められています。学習環境もまた一つの環境のあり方であると捉えれば,言語教育においては,学習者の多様性,学習機会・評価の均衡性,学びの場の持続可能性の大切さに基盤を置きつつ,教育実践を行うことが重要になります。より具体的には,次のような場を創ることを念頭に,教育実践をデザインするということになるでしょう。

  • 複雑かつ多様な言語・文化・価値観を理解・受容する。
  • 学習のプロセスを評価する。
  • 構築⇔解体,向上⇔停滞,成功⇔失敗などの往還を繰り返す。

本特別企画では,まず,齋藤さんが,自身が日本語教育実践を行う中でどのような違和感を覚えたか,その違和感に基づき,どのような実践を行ったかを語ります。次に,齋藤さんと宇都宮さんが,齋藤さんが行った実践を題材に,生態学的な観点で捉えることにより,言語教育実践がどのように変わっていくか等に関し,語り合います。それらの語りを踏まえ,参加者全員で言語教育を生態学的な観点で捉えることの可能性を議論します。

話題提供者紹介
宇都宮 裕章(うつのみや ひろあき)
学生の時から学校現場での日本語教育にかかわってきた縁で,言語教育の問題に取り組み始める。共立女子大学,横浜国立大学を経て,現在は静岡大学学術院教育学領域に所属。2003年にブリティッシュコロンビア大学へ研修留学した際,教育言語学の捉え方に感銘を受け,以降学校教員との協働で理論と実践をつなぐ研究を行っている。主著は『教育言語学論考』『生態学が教育を変える(訳)』『新ことば教育論』など。
齋藤 智美(さいとう さとみ)
―プライベートレッスンという形態で日本語教育に関わり始めた。その経験から「個人がそれぞれの環境でどう学習しているのか,環境をどう捉えているのか」ということから研究を始める。場BaとSprachspiel,脱学習,意味づけ論などの視点から,ことばの学習環境を考え続けている。現在,早稲田大学日本語教育研究センター所属。
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参考資料