言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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2019年度 例会

【第65回:3月15日】
ゼロビギナーと対話するとは――ことばを教えることが目的ではないなら,何が教室活動の目的なのか(細川英雄さん:言語文化教育研究所)

  • チラシ 日時: 2020年3月15日(日)15:00〜17:00
  • 新型コロナウイルス感染拡大のため,オンラインでの開催に変更いたします。参加をご希望の方は,開催日時になりましたらこちらのZOOMオンライン・ミーティングよりご参加ください。当日は細川英雄さんからの話題提供に対し,ZOOM上で参加者どうしで話し合う場も作れればと考えております。奮ってご参加ください。よろしくお願いいたします。
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 502教室[アクセス
  • 参加方法: 参加費無料.申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
  • お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
  • チラシをダウンロード

話題提供: 細川英雄さん(言語文化教育研究所)

当例会では『対話をデザインする――伝わるとはどういうことか』(筑摩書房)の著者,細川英雄さんに日本語教育における対話実践についてお話しいただきます。

2020年1月18日(土)に「多文化共生プロジェクト」主催により福岡で開催された「日本語教育に興味を持っている人のためのワークショップ「ゼロビギナーと対話する」とは?──細川さんに聞いてみよう!ことばを教えることが目的でないなら,何が教室活動の目的なのか。」とほぼ重なる内容を,東京周辺にお住まいの方のためにもう一度お話しいただくという趣旨のもとに当例会を開催します。

近年,学校教育や国語教育など様々な教育の場で「対話」の実践が試みられています。日本語教育の現場でも,活動型の授業の一つとして,「対話」の実践に興味のある方,また実際に実践されている方もいらっしゃることと思います。一方,現場の教師からの声でよく聞かれるのは,「ゼロビギナーに〈対話〉は無理」「中級~上級の学習者でないと,〈対話〉は難しい」というものです。はたして本当にそうでしょうか。そのように考えるとしたら,その考えの根拠はなんでしょうか。「ゼロビギナー」は本当に対話ができないのでしょうか。細川さんのお話をもとに,みなで考える会にしたいと思います。

細川英雄さんプロフィール

早稲田大学大学院日本語教育研究科教授を経て言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア主宰。博士(教育学)。ことばと文化の統合から始まり,国語と日本語の連携を経て,「よく生きる」ために言語教育に何ができるのかという観点から「ことばの市民」という概念を提案している。

【第64回:11月16日】
「質的研究」は何を目指すか ― フッサール現象学の原理から(稲垣みどりさん:東京国際大学)

話題提供: 稲垣みどりさん(東京国際大学)

本例会では,「質的研究」のそもそもの意味と価値について,質的研究の理論の源流の一つであるフッサール現象学の原理を紹介しつつ,参加者の皆様と考えてみたいと思います。

「主観的」と「客観的」って,そもそもどういうこと? 「実証的」の意味するところは? 科学的で実証的なデータって,何? というようなことからディスカッションを始め,じゃあ何のための「質的研究」なのか,その意味と価値について考えます。

私,稲垣は日本語教育学のライフストーリー研究の意味と価値を考えあぐねて,哲学と現象学の道に足を踏み入れ,そこに大いなる質的研究の光と可能性を見出しました。そういう私の経験談と,現象学の原理から私が学んだこともお話しします。

ですがメインは私のレクチャーではありません。日本語教育,外国語教育,その他何でも,質的研究,研究一般について興味ある方と「質的研究」について話し合い,研究って,そもそも何のため? 何を目指すのか? 日頃の疑問をぶつけ合い,議論する会にしたいと思います。大学生,院生歓迎です。どうぞご参加下さい。

稲垣みどり プロフィール

中学,高校の国語科学校教員を経てアイルランドに渡り,10年以上高校と大学で日本語を教える。帰国後,博士号(日本語教育学)取得。現在は大学で多国籍の留学生対象に日本語を教えている。

【第63回:9月28日】日本語教育活動における政治的主体とは何か

当日のスライド

スライドへのコメントを歓迎します。


  • チラシ 日時: 2019年9月28日(土)16:00〜18:00
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 502教室[アクセス
  • 話題提供: 松島調(MATSUSHIMA Nari)さん
  • 参加方法: 申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
  • お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
  • チラシをダウンロード

政治的主体とは市民である。「政治」という語から想起されるものは,国家というシステムや政党,議会などが大半ではないだろうか。しかし,そういった「政治」とは,「法的市民社会」を作るもので,氷山の水面の上に出ている突起の山のように,一部分でしかない。その水面下では「倫理的市民社会」が全体の根底を支えている。cf) カント

人間は動物や機械とは異なり,思考し,公共空間に生きる社会的存在者である。この活動を政治的活動と考える。思考のプロセス及び公共空間における活動には,ことばが介在する。日本語教育はことばにかかわる教育をしている以上は,この「思考」と「公共性」に携わらなければいけないのではないだろうか。習得という範囲内に留まらず,その教育を通じた市民化=政治化までを射程に入れられるのではないだろうか。以上のような「倫理的市民社会」を目指す日本語教育(ひろく言語教育全体)のあり方の妥当性・可能性について,共に検討したい(話題提供 & 話し合い)。

参考

【第62回:6月29日】日本語教育における「育てるカウンセリング」を用いた心の支援とは

当日使用したスライドをダウンロード

  • チラシ 日時: 2019年6月29日(土)16:00~18:00
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 502教室[アクセス
  • 話題提供: 高久孝幸さん(帝京平成大学附属日本語学校)
  • 参加方法: 申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
  • お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
  • チラシをダウンロード

日本語教師である私は,ここ数年,毎日のように学習者から様々な相談を受けてきた。学習者の発達課題は,「学業」,「人生設計」,「人間関係」,「自立」,「健康」等,多種多様である。それらの発達課題に直面した学習者は躓き,怠学,不登校,ストレス,非行,ときには自傷行為にまで走ってしまうこともある。そのような光景を目の当たりにしているうちに,私は教師である自分にできることは何かと,もどかしさを感じ,葛藤するようになった。そのような時期に「育てるカウンセリング」に出会った。「育てるカウンセリング」とは,教師と学習者の心と心のふれあいをとおし,学習者が自らの発達課題を乗り越えていけるように,成長を促すという考え方である。「育てるカウンセリング」においては,学習者が他者との関わり合いを深めたうえで,他者とのつながりの中で自己を見つめ直していくことが重視される。また,教師には学習者が自らの行動を変容できるような気づきを与え,学習者の自己実現を支援することが求められる。

私は「育てるカウンセリング」を日本語教育実践に取り入れるための方法として,構成的グループエンカウンター(Structured Group Encounter:略称SGE)の一形態である「内観エクササイズ」(振り返り作文)を自身の教育実践に導入した。「内観エクササイズ」は,ある過去の出来事を思い出し,自己を見つめ直し,固定された考えを取り除いたうえで,認知の変容を起こし,行動を変えていくという流れで進められる。こうした能動性のある活動をとおし,学習者は自身で外界との和解を成立させる。その結果,学習者は徐々に行動変容を起こし,自分で発達課題を乗り越え,問題を解決していけるようになる。

以上のような私の問題意識と経験にもとづき,本例会では,日本語教師は日本語教育の枠組みの中で学習者の心の発達援助をどのようにデザインするか,より具体的には,どのように学習者の自己実現欲求を満たすための支援を行うかに関し,皆様と議論できればと思う。

【第61回:5月18日】原理をもとに実践をするということ――「風越コラボ」参加報告会

  • チラシ 日時: 2019年5月18日(土)14:00~16:00
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 502教室[アクセス
  • 話題提供: 鈴木綾乃さん(横浜市立大学)
  • 参加方法: 申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
  • お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
  • チラシをダウンロード

「風越コラボ」とは,【一人ひとりが「自由だ,幸せだ」という実感を持つ社会のために,どんな学校や教育がありえるのか,多様な人たちが集まって試行錯誤しながら実験する場(Collaboration Laboratory)】で,第1期が2018年6月から12月にかけて行われました。話題提供者はこの第1期風越コラボに参加し,教育に関わるさまざまな人と交流・探求を行いました。第61回例会では,この風越コラボに参加して感じたことをお話し,その上で,「原理をもとに実践すること」について皆様と議論したいと思います。

哲学者・教育学者であり,軽井沢風越学園設立準備財団理事の苫野一徳は,わたしたち人間は〈自由〉になりたい,すなわち「生きたいように生きたい」という欲望を持っており,〈自由〉になるためには他者の〈自由〉もまた承認しなければならない(=〈自由の相互承認〉),そして「〈自由〉と〈自由の相互承認〉の感度を育むことが,教育の原理である」と言います(苫野,2011,2014など)。その一方で,〈自由〉と〈自由の相互承認〉の原理を,自分の理念を都合よく補強するのに使ってはいけない,「自分の実践は,本当に〈自由〉とその〈相互承認〉を実現するものになっているんだろうか。そう問い続けることが重要です」とも述べます(第1回風越コラボレポートより)。

では,言語教師はそれぞれの現場で,その原理をどのように実践すればよいのでしょうか。今行っている実践は,〈自由〉と〈自由の相互承認〉を実現する/その感度を育むものになっているでしょうか。〈自由〉と〈自由の相互承認〉の原理を,都合よく使ってはいないでしょうか。

以上のことを,風越コラボで出会った方々から話題提供者が学んだことや,風越コラボ終了後のさらなるコラボレーションの様子などをご報告した上で,議論できればと思います。

風越コラボに関しては,レポートとして下記の2つがあります。こちらを読んでおいていただけると,やりとりしやすいと思います。

参考

第1回風越コラボの課題本
  • 苫野一徳(2011).『どのような教育が「よい」教育か』講談社.
  • 苫野一徳(2014).『教育の力』講談社.
第2回風越コラボの課題本
  • 赤木和重(2017).『アメリカの教室に入ってみた:貧困地区の公立学校から超インクルーシブ教育まで』ひとなる書房.
関連

第60回:4月20日「新自由主義と言語教育」

  • チラシ 日時: 2019年4月20日(土)14:00〜16:00
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス22号館 8階会議室[アクセス
  • 話題提供:
    • 本林響子さん(お茶の水女子大学)
    • ウィル・シンプソンさん(東京理科大学)
    • 吉田孝子さん(スペイン・リェイダ大学大学院)
  • 参加方法: 申し込み不要.当日,直接会場にお越しください。
  • お問い合わせ: project@alce.jp(企画委員会)
  • チラシをダウンロード
  • 当日のスライドを公開しています

新自由主義とは1970年代後半から世界中で見られる政治的・経済的変化のことを指します。これはいくつもの抜本的な変化を内包する用語で,グローバルな規模でみられる人や資本,文化の行き来,教育のように以前は公共サービスであったものが民営化・市場化されること,労働者の権利や労働組合の権威の低下,市場中心の社会,そして集団よりも個人を擁護するイデオロギーの蔓延を含みます。

では新自由主義はいかにして言語教育に影響を及ぼしてきたのでしょうか? 私たちは「言語教師」や「言語学習者」という存在なのでしょうか,それとも「サービスを提供する者」や「顧客」という存在になりつつあるのでしょうか? 教養や文化的・精神的成長のために言語を学ぶのでしょうか,それとも言語とは市場での競争により有利になるために獲得する「モノ」なのでしょうか?

本例会では,3名による以下の発表と参加される方々との意見交換を通して,これらの問いについて議論します。

  1. 新自由主義とは何か?(吉田孝子)[当日のスライドより
  2. 教師による労働の抹殺と新自由主義的学習者ー消費者(ウィル・シンプソン)[当日のスライドより
  3. 新自由主義的主体としての言語教師とその社会言語的軌跡(本林響子)[当日のスライドより