言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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2024年度 特別企画

【8月4日:オンライン開催】
「教える」も「育てる」もない森の民に言語教育とは何かを伝えようとしてみたら大変だった話

講師:伊藤雄馬さん

※本企画は、第97回例会「Learning by Doing ― ランゲージ・フェスティバルの実践」(7月27日,衞藤智子さん、板橋民子さん、吉田真宏さん)とのコラボ企画です。

今回の特別企画では、『ムラブリ ― 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』(集英社インターナショナル,2023)『人類学者と言語学者が森に入って考えたこと』(共著,教育評論社,2023)で知られる言語学者 伊藤雄馬さんにお話しいただきます。

ムラブリの人たちの生活をとおして見たとき、世界は、ことばは、どのように見えるのでしょうか。教育や研究という営みはどのようなものとして捉えることができるのでしょうか。このことについて考えることを通して、近代社会において自明視されている学習や教育という概念についてもう一度考えてみたいと思います。

伊藤雄馬さんからのメッセージ

言語教育ってなんでしょうね? もっというと、教育ってなんなんでしょうか。あ、こんにちは、伊藤雄馬と申します。ムラブリという森の民の言葉を学んで15年くらいになります。ムラブリ語は500名くらい話者がいて、そのうちなくなりそうな危機言語です。危機? やっぱり言語がなくなるのは、危機なんでしょうかね。

ところで、ムラブリ語には「教える」に相当する本来語がありません。借用語に使役接頭辞という、かなり大袈裟な言い方をします。また、「育つ」はあるけど、「育てる」は言いません。文法的には可能なのに、です。調査中に「育てる? どういうこと?」と聞き返されて、ぼくは何も答えられませんでした。

「教える」も「育てる」もないムラブリに、言語研究や言語教育の意義を、どう伝えればよかったのでしょう。みなさんのお知恵をお貸しください。(伊藤雄馬)