言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

月例会

言語文化教育研究学会では,基本的に月に1回,月例会を開催しています。あるテーマをめぐり,提供された話題をもとに議論を行うことで,今後の言語文化教育研究の発展につなげていくことを目的としています。

特別企画
「『社会につながる自己表現』とは何か――タイの大学で行った日本語エッセイクラスにおける実践を事例として」
江崎正さん

  • チラシ:日時: 2017年7月21日18:00~20:00
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 22号館 202教室[アクセス
  • 参加費: 無料
  • 予約: 不要(当日,直接会場にお越しください)
  • お問い合わせ: monthly@alce.jp(月例会委員会事務局)
  • チラシをダウンロード

話題提供: 江崎正(タイ・カセサート大学教養学部日本語科講師)

どこの国でも,社会や政治の状況がその国の教育にも反映されているということはよく耳にする。タイの場合,社会を表す際に「階層社会」や「格差社会」という言葉がよく使われる。例として貧富の格差,都市(バンコク)と田舎の格差が挙げられる。政治においては2006年のクーデター以降,現在に至るまで混乱の様相を見せている。さらに2014年のクーデターにより,軍事政権に対して公然と反対を表明することはできなくなっている。特にマスメディアでは「表現の自由」が制限されている。そしてタイの教育に目を向けると「勉強とは先生の言ったことを,できるだけたくさん暗記して,どれだけ暗記したかを問うテストが多い。タイの勉強とは一種の暗記競争のようだ。だから論理的,批判的に考えるスキルが弱い」という話を他の教師からよく耳にする。そこからは学習者が自分で考え,自分で言葉を選び取り,自分の言葉で表現することは,あまり重要視されてはいないようである。そのような社会や政治状況を背景に,初等,中等教育を経てきた学習者にわたしは大学の外国語コースで出会うことになる。

そして日本語を学んでいる学習者を前にして学習者の将来像を考えることがよくある。学習者の大学卒業後に待ち受けている世界とは,どのようなものであるか。その世界とは1つの国に留まるのではなく,国境線をいつくも乗り越えていくグローバルな世界であり,多種多様な背景を持った人々に出会う世界である。お互いに違うものを持っている者同士が,その違いに気づき平和に暮らしていくためには,お互いに違いを言葉で表現し,理解し合うことが大切になると思われる。つまり自分で考え,語彙や文法を自分で選び取り,自分の言葉を紡いでいくことが必要になってくる。

以上のような2つの大きな要素(1.学習者が育ってきたタイの社会や政治状況と教育環境,2.近い将来,学習者に待ち受けている世界)を考えた上で,タイの学習者にとって,「ことばを使って表現する」とは何を意味するのか,その大きな問いかけがこの試みのスタート地点になっている。

本企画では,わたしがタイの大学で行ったエッセイクラスにおける実践を事例として,「社会につながる自己表現」とは何かを考える。このエッセイクラスは,タイの教育事情と学習者に揺さぶりをかけること,そして「表現する場」を作り出すこと,具体的には,学習者の「何?どうして?」と「表現したい(伝えたい)」という気持ちを引き出すことを目的に行われた。議論の素材として,この実践の背景にあるもの,ねらい,手順,学習者達の変化,問題点について話す。本実践では,前期に「自分語り(自分のことを説明する)」から始まり,意見と理由を論理的に書く,それに付け加え,書くことを通じて他者(今回は日本語母語話者)と出会うEメール文通を行った。そして後期にはタイの大学生が苦手といわれている「批判的に考えて,それを表現すること」を主なテーマにした。「北風と太陽」という1つの話を自分の日常生活の中から,北風が意味するもの,太陽が意味するもの,旅人が意味するものを考え,自分バージョンの「北風と太陽」を作った。そのあと,問題発見を目標にして「タイのごみの問題と解決策」「カセサート大学の問題点と解決策」「タイの教育の格差を少なくするために自分ができること・国ができること」をトピックとして,書き手の日常生活の中から見慣れている物を,注意深く見て,問題点を見つけること(批判的に考えることと,解決のために自分は何ができるのか)を行い,それを書く行為で表現した。その他,1行詩を創作する活動では,私達の毎日の生活で使っているユーモア,皮肉,比喩を使って遊び心満載に私達の日常を1行詩で表現した。このようにエッセイクラス活動全体が学習者にとっての「社会につながる自己表現」になっていったように感じられた。

実践を通してわたしにとっての「社会につながる自己表現」とは,「他者への働きかけ」であり「他者理解への鍵」ではないかと思っている。そして4技能すべてを使う,身近なところから考える,注意深く物事を見る,他者の意見を知り,その違いに気づく,意見を共有する,人間関係の緊張を緩和させるためにユーモアを使う,直接性を避けるために比喩を使うなど,多様なものが「社会につながる自己表現」を支えているのではないかと気づいた。「ことば」と「私達の人生」と「私達が暮らしている社会」がつながっている言語教育とは,言語スキルの上達だけを目的にするのではなく,この自己表現を支えるものに数多く出会える場を用意すること,そして学習者にそれらを体験してもらい,そこから出てくるもの(他者理解であったり,気づきから自ら行動を起こすことであったり)が重要になるのではないかと考えている。やがてそれらが共生や平和へとつながっていくのではないか,と感じている。

ディスカッションしたいポイント
  1. それぞれ教えている環境が違う中で,言語教育において,学習者から様々な「気づき」や「表現したいという欲求」を学習者から引き出すことについて,どのような試みがされていますか。なぜそのような試みが必要なのですか。「気づき」や「表現する場を作ること」について,どのように考えていますか。どの程度,教師が自覚的になっていますか。
  2. タイで教える際には,タイの社会事情から「表現する場」を作ることは,とても切実な問題として存在します。日本で教える際にも,「表現する場」がどれほど切実な問題としてありますか。
  3. エッセイクラスでの試みは「ことば」と「私達の人生」と「私達が暮らしている社会」がつながっていることから,出てきた試みの1つです。これらの3つの関係性について,どのくらい意識されていますか。
  4. これら3つのつながりを邪魔しているものは,言語教育の中で何だと感じていますか。
  5. 1.~4.の議論を踏まえ,「社会につながる自己表現」とはどのような表現だと思いますか。また,言語教育において「社会につながる自己表現」とはどのように実現されると思いますか。

第53回
「〈台湾・香港・韓国人日本語学習者数は800万人規模〉からの,〈やさしい日本語ツーリズム〉――マーケティングの視点から見た日本語教育」
吉開章さん

  • チラシ 日時: 2017年7月22日(土)14:00~15:45
  • 会場: 早稲田大学 早稲田キャンパス 22号館 512教室[アクセス
  • 参加費: 無料
  • 予約: 不要(当日,直接会場にお越しください)
  • お問い合わせ: monthly@alce.jp(月例会委員会事務局)
  • チラシをダウンロード

話題提供: 吉開章(株式会社電通・やさしい日本語ツーリズム研究会事務局長)

2016年,国際交流基金と電通が発表した「台湾・香港・韓国の日本語学習者数は合計800万人規模」という共同調査結果。これをどう捉えていいか戸惑っている日本語教育関係者は多いのではないでしょうか。そしてこれを発表した「やさしい日本語ツーリズム研究会」とは…。

一連を仕掛けた「中の人」の吉開章さんは,デジタルマーケティングのプロである一方,Facebook上で2万人を超える日本語学習者を日本語教師のチームでサポートする「The 日本語 Learning Community」を主宰・運営しています。教室で教えたことも教案も書いたこともない吉開氏が,今「マーケティング」という視点から様々なことを日本語教育に提示しようとしています。

本月例会では,まず,吉開さんに基金・電通共同調査の読み方を中心に話していただきます。その後,調査に関する質疑応答や意見交換を行います。(事務局)

2017年度月例会のご案内

言語文化教育研究学会では,学会発足以前の研究会時代から現在に至るまで,月例会を定期的に開催してきました[参考:開催記録]。月例会の目的は,あるテーマをめぐり,提供された話題をもとに議論を行うことで,今後の言語文化教育研究の発展につなげていくことです。

これまで毎回の月例会開催にあたり,次の点に留意してきました。

  • 多様な現場からの多様な実践や問題意識に関し,できるだけ多くの方々に話題提供していただく。
  • 話題提供者により設定されたテーマをめぐり,議論を展開する。

月例会は,通常の学会における研究発表会等とは,質的に異なります。研究発表会などでは,基本的に発表者が自身の研究に関し,発表することが重視されています。そのため,質疑応答の時間が設けられていたとしても,発表者から参加者への一方向的な伝達になりがちです。これに対し,月例会においては,提供された話題をもとに,参加者全員で議論することを重視してきました。

以上のような経緯を踏まえ,今後,月例会では,話題提供者と月例会委員間で事前にやりとりすることをとおして,提供される話題や議論の場のデザインを協働的に構築することを重視したいと思います[関連:月例会委員会]。具体的には,主に次の二つの点に関し,話題提供者と月例会委員で事前にやりとりを行います。

  1. どのように説明すれば,自身の実践や問題意識が文脈を共有していない実践者(参加者)に理解してもらえるか。
  2. (説明にもとづき)参加者にどのような問いを投げかけるか。

話題提供者は,月例会委員とのやりとりをとおし,自身の実践や問題意識に関する説明を精緻化するとともに,自身の実践や問題意識を題材に議論する場をデザインします。

話題提供者と月例会委員との協働により,多様な方々から提供される様々な実践や問題意識を題材に開かれた議論が展開される場,それがALCEの月例会です。会員のみなさまの積極的な応募を歓迎します。

例えば,こんなテーマで議論します

ことばと文化の教育に関わるテーマであれば,どのようなテーマでもかまいません。言語教育(日本語教育,外国語教育,国語教育)に留まらず,異文化間教育,生涯教育,芸術教育,演劇教育,教育哲学,教育社会学,教育心理学,教育人類学等,多様なテーマを歓迎します。

例えば,こんな場を創ります

  • 研究途上の自身の研究を捉え直したり,多様で広い視点からコメントを得たりするために話題を提供し,参加者たちと議論します。
  • 自身の実践を他者に開いて振り返ったり,その実践に対して多様で広い視点からコメントを得たりするために,参加者たちと議論します。
  • あるテーマを設定し,話題提供を行い,そのテーマに基づいて参加者同士で「カフェ」的に自由に意見交換をします。
  • あるテーマを設定した上で,講演会のような形で語り手を招き,参加者同士で意見交換をします。
  • ある技術,方法,思考法等に関し,ワークショップのような形の体験の場をつくります。体験を題材として参加者同士で議論します。

参加方法

話題提供者/企画者
  • 話題提供/企画希望者は,開催日程をご参照の上,希望日,お名前,ご所属,およびテーマをmonthly@alce.jp(月例会委員会)までご連絡ください。調整の上,後日,月例会委員よりメールにてご連絡いたします。
  • 話題提供/企画は学会の会員に限定しております。話題提供/企画をご希望の方は事前に入会手続きをお済ませください。また,共同で話題提供を行う場合は,話題提供者のうち,1名以上が会員である必要があります。[関連:入会案内
  • 話題提供/企画は,先着順になります。希望者が多い場合,日程を調整させていただく場合がございます。
  • 話題提供者/企画者には,月例会前に話題提供/企画の要旨,論点等の提出をお願いします。また,月例会後に報告(学会会員向けメールマガジンに掲載)の提出をお願いします。[関連:会員向けメールマガジン
参加者
  • 会員である必要はありません。
  • 参加は無料です。
  • 事前申込は不要です。当日,直接会場にお越しください。

月例会開催日程(2017年度)

2017年
第50回: 4月22日(土)14:00~16:00
第51回: 5月27日(土)14:00~15:45
第52回: 6月23日(金)18:00~19:45
第53回: 7月22日(土)14:00~15:45
第54回: 10月27日(金)18:00~19:45
第55回: 12月15日(金)14:00~15:45
2018年
第56回: 2月17日(土)18:00~19:45

※そのほかに学会特別企画(講師を招いての講演会,ワークショップ等)の開催を検討中です。詳細は決定し次第,お知らせします。

お問い合わせ

月例会に関するお問い合わせは,monthly@alce.jp(言語文化教育研究学会・月例会委員会)まで。