言語文化教育研究学会:Association for Language and Cultural Education

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第9回年次大会 2023年3月4,5日
コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育 コンヴィヴィアリティと言語文化教育


テーマ趣旨「コンヴィヴィアリティと言語文化教育」

コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育

パンデミックの状況下にあって、社会は大きく変化しました。仕事のリモート化、授業のオンライン化によって、物理的な場を前提としない非対面のコミュニケーションが一般化し、このことによって新たなつながりが生まれ、多様な実践が生まれました。一方で、移動が規制され、場における活動にも制限が設けられるようになりました。教育分野においても、対面かオンラインか授業形態の決定が、〈うえから〉の要請に応えてなされたことは記憶に新しいところです。つまり、教育・学習にかかわる当事者の意思の及ばない場で、それらの決定が行われたということになります。おそらくこれと同様のことは、社会のいたるところで起こっているのではないでしょうか。そして、それはパンデミック以前から存在し続けていたことなのかもしれません。では、そのことに違和感を覚えたとき、私たちに何ができるのでしょうか。

私たちは、このことを考えるための鍵概念として「コンヴィヴィアリティ」を提示します。「コンヴィヴィアリティ」とは、接頭辞con-(=with 共に)とラテン語vivere(=to live 生きる)から成ることばで、自律共生、集団的創造、共創と訳されることばです。人間がことばや、テクノロジー、制度やルールといった〈道具〉に隷属することなく、他者や環境との調和を保ちつつ、本来的に持つ力によって自由で創造的な活動ができる社会のあり方をさします。では、高度に制度化された今日の社会において、私たちの行動やふるまいに制限を与えるものとも、私たちの活動を広げる可能性を持つものともなりうる道具とは何なのでしょうか。どうすればその道具に隷属するのではなく、うまく使いこなしつつ、私たち一人ひとりがアクターとして意思決定を行い、その状況を変えていけるのでしょうか。そして、自分たちの立つその〈場〉からどのような社会を構想し、未来を創造していけるのでしょうか。

第9回年次大会では「コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育」をテーマとします。「_」は、私たちの行動に制約を与えるものであり、他方で自由で創造的な活動を可能にするものでもある道具が何かを想像してみるため、あえて挿入した空白です。私たちにとっての道具が何か、その道具との関係性を組み替えつつ、私たちの立つその〈場〉から、望む未来を実現するために何ができるのか。ことば・文化・教育・社会に関わる私たち一人ひとりが、それぞれの場所で、その制約をどう乗り越え、その場からどのような学びを創造していくのか。私たちの知恵と力を集め、場と場をつなぎ、自由で創造的な活動を可能にする社会をどのように実現し、実践していくのか。私たちは、本大会をこのことを共に考える契機としたいと考えます。

100年に1度の変革の時期とも言われるこの時代。パンデミックという共通の経験を経た今だからこそ、ありえた過去に想いをめぐらせ、その経験を吟味し、これからの未来を構想し、社会を変えていくための行動につなげることを目指します。

企画委員: 佐野香織,嶋津百代,八木真奈美,大平幸

プログラム

※印刷版の用意はありませんので,各自ダウンロードしてください。

大会シンポジウム:3月5日(日)10:00~12:30
「コン_ヴィヴィアリティと言語教育」コンヴィヴィアリティと言語文化教育

シンポジスト・プロフィール
シンポジスト
岩城あすか(箕面市国際交流協会)
榎井縁(大阪大学)
山崎亮(studio-L/関西学院大学)
山住勝広(関西大学)※諸般の事情でキャンセルとなりました
司会
大平幸(立命館アジア太平洋大学)
岩城あすか
大阪外国語大学トルコ語学科卒業。トルコ共和国立イスタンブール大学社会科学研究所修士。2005年度より(公財)箕面市国際交流協会にて勤務,現在は事務局次長兼総務課長として,在住外国人が日替わりで運営するコミュニティカフェ「コムカフェ」を担当するほか,地域の国際化を促す様々な事業に取り組んでいる。2012年からは重度の身体障碍者のみで構成される在阪の劇団『態変』が発行する情報誌「イマージュ」の編集委員(年3回発行),2019年度より(一財)自治体国際化協会の多文化共生アドバイザーも務めている。
榎井縁
大阪大学大学院人間科学研究科特任教授。専門は教育社会学。日本における移民の子どもの教育達成・社会参加や多文化共生教育に関する研究等。フィリピン草の根民衆運動,ネパール・チベット難民児童教育支援,中学校教員,教育委員会相談員,国際交流協会事務局長として多文化共生の教育/地域づくりを実践。2013年より現職にて共生社会に貢献できるグローバル人材・大学院生をNPOと繋がりながら育成している。共著に2021年『外国人の子ども白書―権利・貧困・教育・文化・国籍と共生の視点から』第二版,2022年『多文化共生の実験室―大阪から考える』など。
山崎亮
studio-L代表。関西学院大学建築学部教授。コミュニティデザイナー。社会福祉士。
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て,2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ,住民参加型の総合計画づくり,市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザインの源流』太田出版,『縮充する日本』PHP新書,『地域ごはん日記』パイインターナショナル,『ケアするまちのデザイン』医学書院などがある。
山住勝広
※諸般の事情でキャンセルとなりました
関西大学文学部教授。教育学,教育方法学,活動理論。「文化・歴史的活動理論」と「拡張的学習理論」の枠組みを用いた教育のイノベーション研究に,現場の実践者たちと対話・協働しながら取り組んでいる。主な著書に Activity Theory and Collaborative Intervention in Education. (Routledge, 2021)『拡張する学校』東京大学出版会,2017年。『教科学習の社会文化的構成』勁草書房,1998年。『拡張的学習と教育イノベーション』(編著)ミネルヴァ書房,2022年。『子どもの側に立つ学校』(編著)北大路書房,2017年。『ノットワーキング』(共編著)新曜社,2008年,など。

委員企画フォーラム:3月4日(土)13:00~14:30
Round talk’n 2022 コン_ヴィヴィアリティ」

話題提供者
尾辻恵美(シドニー工科大学)
佐野香織(長崎国際大学)
嶋津百代(関西大学)
尾辻恵美
シドニー工科大学,准教授。専門は社会言語学,多言語主義,批判的応用言語学,市民性・公共性とことばの教育。特にグローバル化が進む中,多様性が顕著化している街の日常言語活動やコンヴィヴィアリティの様相を探るメトロリンガリズムの研究が有名である。最近は,セミオティック資源に目を向けた,言語イデオロギーと言語教育イデオロギーの転換に関する研究にも興味を持っている。主著に Metrolingualism: Language in the city.(共著)Routledge, 2015『ともに生きるために ― ウェルフェア・リングイスティクスと生態学の視点からみることばの教育』(共編)春風社,2021年,論文に Metrolingualism in transitional Japan. Routledge, 2019「湯呑の貫入に投げ込まれた『移動とことば』」『移動とことば2』くろしお出版,2022年などがある。
佐野香織
長崎国際大学人間社会学部准教授。専門は,日本語教育学,応用言語学,成人教育・学習。多文化共生,省察的実践論,経験のことば化,対話と学び,ナラティブをキーワードとして「多様な人が多様な関心を持ってともに生きる社会をつくる」観点をもとに,ことばの学びに軸を持って多様な領域を横断しながら実践研究を続けている。『〈やさしい日本語〉と多文化共生』(庵功雄(監)第20章)ココ出版,等執筆。
嶋津百代
関西大学外国語学部/外国語教育学研究科教授。専門は日本語教育,日本語教師教育,ディスコース研究。特に,学習者・教師・教師教育者のナラティブやアイデンティティを中心に研究している。主な著作に『ことばで社会をつなぐ仕事 ― 日本語教育者のキャリア・ガイド』(義永美央子,櫻井千穂との共編著)凡人社,2019年『ナラティブでひらく言語教育 ― 理論と実践』(北出慶子,三代純平との共編著)新曜社,2021年などがある。