テーマ趣旨
コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育
パンデミックの状況下にあって、社会は大きく変化しました。仕事のリモート化、授業のオンライン化によって、物理的な場を前提としない非対面のコミュニケーションが一般化し、このことによって新たなつながりが生まれ、多様な実践が生まれました。一方で、移動が規制され、場における活動にも制限が設けられるようになりました。教育分野においても、対面かオンラインか授業形態の決定が、〈うえから〉の要請に応えてなされたことは記憶に新しいところです。つまり、教育・学習にかかわる当事者の意思の及ばない場で、それらの決定が行われたということになります。おそらくこれと同様のことは、社会のいたるところで起こっているのではないでしょうか。そして、それはパンデミック以前から存在し続けていたことなのかもしれません。では、そのことに違和感を覚えたとき、私たちに何ができるのでしょうか。
私たちは、このことを考えるための鍵概念として「コンヴィヴィアリティ」を提示します。「コンヴィヴィアリティ」とは、接頭辞con-(=with 共に)とラテン語vivere(=to live 生きる)から成ることばで、自律共生、集団的創造、共創と訳されることばです。人間がことばや、テクノロジー、制度やルールといった〈道具〉に隷属することなく、他者や環境との調和を保ちつつ、本来的に持つ力によって自由で創造的な活動ができる社会のあり方をさします。では、高度に制度化された今日の社会において、私たちの行動やふるまいに制限を与えるものとも、私たちの活動を広げる可能性を持つものともなりうる道具とは何なのでしょうか。どうすればその道具に隷属するのではなく、うまく使いこなしつつ、私たち一人ひとりがアクターとして意思決定を行い、その状況を変えていけるのでしょうか。そして、自分たちの立つその〈場〉からどのような社会を構想し、未来を創造していけるのでしょうか。
第9回年次大会では「コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育」をテーマとします。「_」は、私たちの行動に制約を与えるものであり、他方で自由で創造的な活動を可能にするものでもある道具が何かを想像してみるため、あえて挿入した空白です。私たちにとっての道具が何か、その道具との関係性を組み替えつつ、私たちの立つその〈場〉から、望む未来を実現するために何ができるのか。ことば・文化・教育・社会に関わる私たち一人ひとりが、それぞれの場所で、その制約をどう乗り越え、その場からどのような学びを創造していくのか。私たちの知恵と力を集め、場と場をつなぎ、自由で創造的な活動を可能にする社会をどのように実現し、実践していくのか。私たちは、本大会をこのことを共に考える契機としたいと考えます。
100年に1度の変革の時期とも言われるこの時代。パンデミックという共通の経験を経た今だからこそ、ありえた過去に想いをめぐらせ、その経験を吟味し、これからの未来を構想し、社会を変えていくための行動につなげることを目指します。
企画委員: 佐野香織,嶋津百代,八木真奈美,大平幸